「まゆ毛や体毛の育毛剤」だけを作る会社、薬事法改正でピンチに SNSマーケティングでソフトバンク出身4代目社長が気付いた「マイノリティー」の市場
◆「暗黙知の了解」が課題、改革で従業員反発も
――入社して最初に何に着手しましたか。 専務として入社してみると、設備や機械が古かったり、手順がマニュアル化されていなかったりと、たくさんの課題があることがわかりました。 まずは、「GMP」という厚生労働省の医薬品製造認可基準を満たすための製造手順の見直しや記録の整備を進めました。 「ミクロゲン・パスタ」の製造法自体は昔から同じです。 ただ、従業員同士で「こうやって製造する」という暗黙の共有となっていました。 しかし、社会が変わるにつれて品質維持のため厳格な管理体制が求められるようになっており、体制の構築に注力しました。 ――従業員からの反発はありませんでしたか? 長年同じ手法で製造や管理を行ってきたため、「これから製造工程を手順化し、記録を正確につけるようにしてください」と伝えると、反発とはいわずとも、手間が増えることへの抵抗があったようです。 ただ、スタッフと手順や書類を一つひとつ照らし合わせながら改善を進めた結果、製造許可更新は前回より比較的スムーズにできました。 ソフトバンク時代に、規制省庁への対応を経験し、大企業の新しい経営や管理手法に触れていたことが役立ったと思っています。
◆コロナショックから、新たな市場に気付く
――代表取締役社長に就任してから取り組んだことを教えてください。 2020年に就任したのですが、タイミング悪くコロナショックが起こりました。 当時、インバウンド需要が全体の30%ほどあり、アジア、特に韓国の方が多く、お土産として日本で買われるお客さんも多かったのです。 しかし、コロナでインバウンド需要が激減して大打撃を受け、経営的に厳しい状況に陥りました。 けれど、売上が落ちた時が踏ん張りどきです。 社員みんなで団結して、製造体制をより強固にして、啓芳堂製薬の土台固めに注力しました。 その期間を数年経て、2023年には70年間ほぼ変えたことのなかった商品パッケージのリニューアルなど、大きな変革につなげていったのです。 ――コロナショックという危機的状況を振り返って思うことをお聞かせください。 コロナショックが2020年に起こり、しばらくは収益面で大打撃を受け、2023年はいわば「守りの1年」「仕込みの1年」というべき期間でした。 その期間に啓芳堂製薬の土台をしっかり固めました。 パッケージのリニューアルとともに、約30年ぶりに値上げもしました。 それができたのも、製造マニュアルを作ったり品質管理の体制を整えたりと、社内の体制を地道にしっかり固めていたからだと思います。 いきなり「なにか新しいことをやろう」と声を上げても、誰もついてきてはくれません。 会社としての土台が強固になってから、「パッケージをリニューアルしたほうがいいのではないか」「製造工程や値段も変えたほうがいいのではないか」と、自然と分かるようになったのです。 価格を上げて利益率が上がっても、購入者の母数が減っていれば意味がありません。 そこで70年来同じ流れでやっていた広告を見直し、InstagramやXなどのSNSなどのデジタルマーケティング施策も始めたのです。 ――デジタルマーケティング施策を始めて、どんな効果がありましたか? 主力購買層は70代でしたが、50代女性が増え、20~30代も見られるようになりました。 意外だったのが、新たな顧客層として、性的マイノリティ層のマーケットに訴求できたことです。 主力購買層は70代でしたが、50代女性が増え、20~30代の男性も見られるようになりました。 意外だったのが、新たな顧客層として、性的マイノリティ層のマーケットに訴求できたことです。 トランスジェンダーの方はヒゲをはやす方が多いことがわかりました。