〈熱暑の下刈が最大の試練〉山村の女性が作り上げた人工林、過酷な作業の改善は柔軟な発想から
お母ちゃんたちが作った日本の造林地
日陰のない造林地で、今はエンジン刈払機を使うのがほとんどだが、一昔前は造林鎌(写真4)を振るったものである。いくら水分補給をしても、全身から水分が発散されて、夕方家に帰るとしばし茫然、ビールで体の隅々まで潤したものだ。 下刈の従事者はお母ちゃんが多かった。お父ちゃんは造林より重労働で危険だが、実収の多い伐採搬出に従事し、お母ちゃんたちは鎌1本でできる造林にきた。しかし、この暑さだから造林が決して楽でもなく、木陰で随意休憩のとれる伐採搬出の方がいいとお父ちゃんたちは思っていた。今でこそ思うのだが、日本の多くのスギ・ヒノキの造林地は実にきれいに成林しているが、これを成し遂げたのは山村のお母ちゃんたちだったのだ。 お母ちゃんたちは、夏ではあるが長袖・長ズボン着用、エプロンをかけ、姉さん被りの手ぬぐいの上にヘルメットを載せ、手には作業手袋、足は地下足袋、手甲脚絆をつけていた。ほとんど目だけ出した出で立ちで、日光の遮断を第一とした。だから、曇りや雨の日の方がよい。小雨だと涼しいし、鎌の切れもよく最高だ。携行する水筒には氷水。マヨネーズの空いたビニール容器に水を入れ、冷凍庫で凍らせたものが人気だった。3日間凍らせたものが最高だそうだ。 作業の合間には、携帯用の砥石で鎌の刃を研ぐ。帰った後もそうだが、鎌の切れ味が作業の強度と功程に如実に影響する。 下刈の功程は5人/日・ヘクタールぐらい。1班の人数は5~10人が適当か。少ないと元気が出ないし、多すぎると危険である。
下刈の手法の試行錯誤
ふつうの下刈は、全刈といって植栽面の全面を刈り払う方法だが、コストの削減、気象被害の予防、動物被害の予防などの目的で、植栽した木の列に沿って帯状に刈る筋刈、苗木の周辺を刈る坪刈などが試されてきた。しかし、決定的に効果のあるものは少なく、刈残した部分の雑草木が次年に生長して残り、次年以降の作業功程を著しく低下させることが分かってから、あまり採用されなくなった。 除草剤の散布も試みられた。極端なのはヘリコプターによる空中散布であるが、水源域への薬剤散布は下流住民への配慮から、ほとんど行われていない。 下刈の仕様には、雑草木に混じっている有用木は刈残すことになっている。これは除伐でもいっしょなのだが、まず面倒なので行われていない。 筆者が経験したかぎりでは、岐阜県の飛騨地方ではホウノキがよく残されている。これは郷土料理に朴葉味噌(ほうばみそ)や朴葉寿司があって、朴葉の需要が多いのである。ホウノキは大木になると葉に手が届かないので、若齢造林地の中にあるホウノキなら葉が採りやすい。 東北地方では、青森ヒバ(針葉樹)やブナの天然林を皆伐した後にスギを植栽した。もともとヒバ天然林の下層にはヒバの稚樹が多く存在するので、ヒバの稚樹も成長してきて植えたスギと競合する。すると下刈でヒバを刈ってしまうのだ。 植えたものを大事にしたい気持ちはわかるが、ヒバの方が品質も高いのだから、せめて両方育てるような気持ちになれないものか。林業技術者などと持ち上げられても、現場の変化に柔軟性をもって対応できない森林官がほとんどなのである。