〈熱暑の下刈が最大の試練〉山村の女性が作り上げた人工林、過酷な作業の改善は柔軟な発想から
日本で一番広大な人工の創造物は何か? それは人工林である。およそ1000万ヘクタール、全森林面積の40パーセント、国土の27パーセントに及ぶ。 【画像】〈熱暑の下刈が最大の試練〉山村の女性が作り上げた人工林、過酷な作業の改善は柔軟な発想から 針葉樹人工林の造成にあたっては、まず植付本数を決めなければならない。それは少なくとも数10年後に収穫する樹木をどのような用途に供するかによって変わる。 例えば奈良県の高名な吉野林業では1ヘクタールに1万本植えた。植栽木の間隔は1メートルでかなりの密植である。 そして20年生前後から間伐で小径木を収穫する。建築用の足場丸太として飛ぶように売れた。50年生ぐらいになると建築用の柱材が収穫できる。これも間伐である。そして最終的には100年生の大径材を皆伐して、酒樽用の板材を製材した。 まことに見事な森林施業であるが、今では足場丸太は鉄パイプに代わり、酒樽も金属製がほとんどである。生産期間が長いので、木材需要が変わってしまうのである。 密植の吉野に対して疎植で名高いのは、宮崎県南部の飫肥林業(おびりんぎょう)である。1ヘクタールに1000本植え(3メートル間隔)の疎植(そしょく)で幹の太りが早かった。年輪が粗いので建築材には向かないが、木造船用の舟材に特化していた。 国有林では、3000本植えが多かった。適度に粗放で、無間伐でも70~80年生になると結構良材が収穫できた。結果オーライだったのだ。 明治末期から大正にかけて植栽された人工林が多く、ちょうど間伐適期には戦争が激しくなって、人手不足で間伐はほとんどできなかった。これも怪我の功名で、そのまま最多密度を維持しながら皆伐期を迎えたので、収穫された木材は年輪の目詰まりがよく、枝もよく落ちて無節材が多く収穫された。
ていねい植えと一鍬植え
3000本植えの場合は、ほぼ縦横1.8メートル間隔で植えていけばよい。造林鍬(ぞうりんぐわ・写真1)という片手で持てる小ぶりの鍬で、斜面に植穴を掘ってそこに苗木を植えていく。 植え方には2つあった。1つは「ていねい植」で、植穴を掘ってよく耕耘して、苗木の根を広げて植穴に置き、土をかぶせて根元をよく踏んでやる。こうすることによって根と土が密着する。 もう一つは「一鍬(ひとくわ)植え」で、斜面に鍬を刺して手前に引き、土と鍬の背にできる隙間に苗木を差し込んで、そのまま鍬を抜けば完了で、スピーディーが身上である。ていねい植えの方は即成長が始まるというのがメリットだ。