「盛り」と「加工」専門家・久保友香が語る、AIが描く未来のビジュアルコミュニケーション
「盛り」と「加工」の歴史からAIに求めること
令和に入ってからは生成AIの進化が目覚ましい。 生成AIは大量のデータからパターンを学習し、イラストから写真までさまざまなコンテンツを生成できる。その簡単さが注目されているが、それと同時に簡単に生成できるといった点で物議を醸しているのが現状だ。 過渡期でもある生成AIに対して、久保さんはどのように感じているのだろうか。 「『盛り』に対して、日本の女の子たちは、難し過ぎるのはいやだけど、簡単過ぎるのもいやだと、努力を要することを大事にするところがあります。だから「間口が広くて、奥が深い」ツールが、『盛り』に関しては普及しやすいと、私は分析しています。そういう視点で見ると、現在の生成AIを利用するツールは、スマホアプリでワンタッチで変換されるような簡単過ぎるものか、ある程度プログラミングやプロンプトの慣れを要するような難し過ぎるものか、どちらかになってしまっているように思います。だから『盛り』にはまだ活かされていない。これからだと考えています」 現在は画像処理も全てが簡単になった時代だ。加工アプリでもシステムアップデートの通知とともに、さまざまな新しいAI機能が日々配信されている。 しかし、新しく出てきたAIに対して、いまだほんの少しだけ「抵抗感」を感じるのはなぜなのだろう。
「ひと昔前のプリクラや加工アプリであれば、このメイクをして撮ると盛れる…といったリアルな加工との組み合わせがありました。しかし、現在ではメイクをしてもしなくても変わらないほどバーチャルだけで盛れてしまいます。 TikTokなどを使えばすぐに盛れてしまう。 加工するのが安易になりすぎてしまって、むしろ加工しないことの方が難しい。だからBeRealなどの方が楽しくなっているのではないでしょうか」 久保さん曰く、生成AIによる「盛り」はこれからもっと盛り上がると予想している。プリクラメーカーは、ユーザの意見によく耳を傾けながら、技術者とユーザーのやり取りの中で開発していたので、うまくいった。しかし、生成AIで「盛る」ツールにおいては、現状ではまだそれができていない気がするという。 生成AIでは、完璧な美女を作ることができる。 AI美女の写真集があるように、現在での生成AIの需要は、自分の外に美しさを作ることに比重が置かれている。 今までのプリクラでは、先端の技術を使うことによって、他者とのコミュニケーションが生まれた。自分の外に美を作るというよりも、自分を使うことによって、ビジュアルコミュニケーションが生まれて文化の発展に繋がってきたツールだ。 「人は、自分を使ってものをつくるのが好きな人と、自分の外にものをつくるのが好きな人にわかれるのではないかと考えています。プリクラや『盛り』は、自分を使ってものをつくるのが好きな人たちがすること。一方、技術者というのは、自分の外にものをつくるのが好きな人たちが多いです。だから、現状、技術者が優位で開発が進んでいる生成AIのツールは、『自撮り』に向いていません。プリクラや『盛り』の技術は、技術者とユーザが接点を持つことで発展してきましたが、生成AIにおいて、両者が接点を持っていくのはこれからだと思います。 しかしこれからは、ユーザの若者たちが技術の受け取る側だけでなく作り出す側になることも増えるでしょう。生成AIを活かした『盛り』の技術は、ユーザ同士のやり取りだけで、発展する可能性もあると思いますね」