「プロで活躍するのはこういう選手かも…」ハナマウイ投手コーチ・中山慎太郎が語る、ソフトバンク育成6位・川口冬弥の強み
抗回旋(=アンチローテーション)トレーニングを重ねることで、体幹のコア部分の強化にもなった。自分自身に適した腹斜筋の使い方も覚え、身体が逃げなくなりリリースポイントが定まった。制球力が上がると共に、効果的な変化球も投げられるようになっていた。 スキル面を磨く考え方の一つとしては、「方法の知識」と「結果の知識」をそれぞれ考えながらトレーニングを行なってきた。 「左肩(=捕手側)に木の枝を付けての投球動作を繰り返しました。投球動作中で並進運動に入っても木の枝が左右に大きくブレないことが大事。それができた時にリリースポイントが定まり、安定したボールが投げられます」 「腹斜筋が効果的に使えて、コアを安定させたまま並進運動できればベクトルはブレない。これが方法の知識にあたります。また逆に考えてみると、木の枝がブレない時には結果的にベクトルがブレずに身体の全てが効果的に使えている。これが結果の知識です」 多くの情報を手に入れやすくなっているため、方法の知識に偏りがちになってしまうこともある。マウンド上で「腹斜筋の使い方はこう?」などと考えている時間はない。「どちらが良いというわけではなく、方法と結果の両方からアプローチすることが重要だと思います」と付け加える。
~今のままで実直に野球に取り組むことこそ一軍選手への最短ルート
ハナマウイで2年、徳島で1年を過ごして別人のように成長、24歳でプロへの入り口に辿り着いた。しかし現状はあくまで育成契約であり、ここから先が本当の勝負になる。 「ハナマウイ1年目は育成期間と言っても良かった。安定感がなかったので長い回を投げさせるのが怖かったです。それでも少しずつ良くなっていくのが手に取るようにわかり、2年目に入ってからは安心して先発を任せられるようになりました」 「ハナマウイで投手としてのベースができつつあった中で徳島では筋力もついた感じがする。正しいメカニクスに沿った投げ方の上にパワーがつけば、投手としてさらに上に行けると思います」 身体能力の高さなど投手としての資質に恵まれているのもある。しかし、それ以上に優れているのは「野球に取り組む姿勢」だという。 「速い球を投げる能力もありますが、調子に乗ったり天狗になったりしない。また、打たれた時も周囲に悪影響を及ぼさない。トレーニングでできないものがあると、「マジかー?」と言いながらも『これができたらまた上手くなる』と言う態度を出す。上達するためにしっかり考えられる部分も魅力的です」 「プロ入りできると言っても育成の四流選手。技術、体力、精神力、コンディショニング…。やるべきことは多いが、甘いことを言わずに全部やらないと一流選手と同じ土壌に立てない。でも川口なら黙々とやり続けていけると思います。その先に何が待っているのか楽しみです」 ソフトバンクは日本シリーズでDeNAに惜しくも敗れたが選手層の厚さは球界トップを誇る。一軍はおろか支配下登録までも果てしない道が控えている。しかし川口は目指す場所へ向かい一歩ずつ着実に歩みを進るはず。 「いろいろな選手と接しますが伸びる選手のモデルケースを見せてくれた」(中山)とまで言わしめた右腕の今後に注目したい。 (取材/文/写真・山岡則夫、写真・佐藤友美、取材協力/写真・ハナマウイ)