東京五輪へ女子レスリング世界選手権トリプル金メダルが意味するもの
レスリングの世界選手権の第3日目がパリで行われ、69kg級の土性沙羅(22・東新住建)、60kg級の川井梨紗子(22・ジャパンビバレッジ)のリオ五輪の金メダリストの2人と、48kg級では高校3年生の須崎優衣(18・エリートアカデミー)が金メダルを獲得した。 日本で女子レスリングといって思い出される人物は、女子が五輪で初めて正式採用された2004年アテネ五輪から、ずっと代表選手だった吉田沙保里と伊調馨だろう。五輪3連覇・世界16連覇の吉田や、五輪4連覇の伊調がいない日本女子は、世界で活躍できるのか。誰もが思う素朴な疑問を、もっとも強く感じていたのは、今年の代表選手たち自身かもしれない。レスラーというのは気弱な発言をしないものという習慣が徹底されているため誰も口にすることはなかったが、チーム全体をふわりと包む雰囲気に、小さな不安も含まれていた。その不安を振り切ったのは、昨年のリオ五輪金メダリスト、土性沙羅と川井梨紗子の2人だった。 女子の種目が始まって2日目の先頭バッターとして世界チャンピオンになった土性沙羅は、初優勝の喜びを、余裕をもって表現した。 「これまでの世界選手権では、決勝の試合順は軽い階級から。だから、私はいつも試合順が後ろだったんですが、今回は初めて一番目に決勝戦を戦うことになりました。いままで3回出場した世界選手権では、試合前に自分の世界に入り込んで集中しすぎて、すごく緊張していました。そして、思うように動けず結果が残せませんでした。でも今回は、去年のリオ五輪のときのように、すごくリラックスしていい状態で決勝戦に挑めて、世界選手権でも優勝できました。これで、五輪の金メダルはまぐれじゃないと証明できた気がします」 土性は、過去の世界選手権ではどこか不安そうな様子を見せながら試合に挑んでいた。初出場だった2013年は、銅メダルを手にしたあと、消え入りそうな声で言葉少なに「勝ちたかった」とうつむいてつぶやき、涙を流した。2014年は決勝にすすんだものの大会中のケガで思うように動けず惜敗。リオ五輪予選を兼ねた2015年も、ケガの様子をみながら戦いつづけ3位だった。このころまでの土性といえば、小さな声で不安そうに話す姿ばかりが思い出される。 ところが、リオ五輪で金メダリストとなって以来、以前からポテンシャルの高さを認められていた攻撃力を必ず発揮するようになり失点が激減、取材時の受け答えも、まっすぐ前を見すえ、はっきりした口調で話すようになった。