東京五輪へ女子レスリング世界選手権トリプル金メダルが意味するもの
土性と同学年の川井梨紗子も、リオ五輪金メダリストになったことをきっかけに、試合運びも受け答えの態度も大きく変化を見せた。 2012年、51kg級代表として初めて世界選手権に出場したものの7位に終わったころの川井は、「弱気になっちゃう、マイナス思考になる癖があるんです」と、やはりうつむきながらぽつりぽつりと話していた。その川井が、やはりリオ五輪金メダリストとなってからは、試合の途中で不安定な様子を見せることがなくなった。そして、まっすぐ正面を向いて堂々と話すようになり、今大会の試合も「リラックスしたよい状態でした」と振り返っている。 「リオ五輪のときも、私の前に53kg級の決勝戦で沙保里さんが負けてしまい、今回も同じ53kg級決勝で(向田)真優が負けた。同じチームの仲間が負けてしまった、負けられないと去年のことを思い出しながらマットへ向かいました。世界選手権では優勝できていなかったので、五輪と、この世界選手権と両方で世界一になれたことで、ようやく本物の世界一になれた気がします」 土性と川井の堂々とした立ち居振る舞いは、まるで去年までの吉田と伊調だ。生きる伝説ともいえる二人がいると、どうしても彼女たちの影に隠れてしまいがちだが、今回は不在になったことで、若手金メダリストの本当の姿が浮き彫りになった。 その土性と川井に挟まれるように、初めて世界チャンピオンとなったのは、あどけなさが残る顔立ちにくるくると喜怒哀楽がめまぐるしくうつる、須崎優衣だ。決勝戦では試合開始から1分過ぎ、投げられ4失点という大幅リードを許したが、この失点は「絶対に負けられない」と、攻撃のペースを上げるきっかけになったという。 「高校3年生の18歳で世界チャンピオンになった人は、私の前には15年前の伊調馨さんだったと訊いていました。そして、全競技のJOCエリートアカデミー生のなかで、シニアの世界選手権で金メダルをとった人はまだいない。いま世界チャンピオンになったら、私が第一号になれます。だから、絶対に勝ちたい、勝つと思ってここへきました」 土性や川井とくらべると、今大会の須崎は決勝戦の冒頭や準決勝での後半など、攻撃を正面から受けて失点する、ひやりとする場面がいくつか見られた。しかし本人が言うように、その危うさを、強さへと変えられる切り替えの速さが須崎の美点だ。