『べらぼう』蔦屋重三郎、初の自主制作本『一目千本』が大ヒット!客の興味を掻き立て、吉原の遊女からも評価を高めた<画期的すぎる方法>とは
◆『一目千本』が大人気の本になった理由 吉原は、非常に品格を重んじる遊び場でした。位の高い花魁ともなると、会うまでに面倒な手順をいくつも踏みます。買うお客さん側にも、歌や書などを理解する高い教養を求められもしました。 吉原でしか通じないしきたりやマナーは数多く、それを守らないと遊べないシステムとなっていました。つまり、プライドの高い面倒くさい街だったわけです。悪い意味で「選ばれた」という意識が高かったといえます。そんな世界で高評価を得るとは大したものだったのです。 意識高い系の遊女たちが『一目千本』を気に入った理由は、販売方法にもありました。実は『一目千本』は、店舗では売っていません。ましてや貸し出しもしていません。『一目千本』は遊郭の中でも、一流のお店だけに置かれていた本なのです。 しかも、お金を出したら買えるというものでもありませんでした。遊女たちが、これはと思った「一流の」馴染み客にだけ、帰りの際、お土産としてプレゼントしていたものなのです。 いわゆるプレミア本です。『一目千本』を持っているということは、吉原に一流の男として認められた証しということになります。マウントをとるのに、こんなに便利なものはなかったのです。この意味で『一目千本』に価値を感じるお客さんは非常に多くいました。 遊女を変わった方法で紹介した本に希少価値を持たせて流通させた重三郎の目論見は大当たり。『一目千本』はあっという間に大人気の本になったのです。
◆一般大衆向けの『一目千本』 さて、この本を遊郭内でだけ取り扱っていたら、耕書堂の売り上げはあまり上がりません。みんなが欲しがる本でも、それだけでは市場規模が小さ過ぎたのです。『一目千本』の人気を鑑みた重三郎は、この本を一般大衆向けにも出すことにしました。 とはいえ、同じ本を出したら、希少価値が下がるし、何より不公平です。そこで、内容を変えることにします。 大胆にも、お花の絵だけを載せて、その横に添えられていた遊郭と花魁の名前をとってしまったのです。 それでも、これまで話題になっていたという下地があったので、一般大衆たちはこぞって『一目千本』を手に入れたということです。 ※本稿は、『べらぼうに面白い 蔦屋重三郎』(興陽館)の一部を再編集したものです。
ツタヤピロコ
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