考察『光る君へ』20話 中宮(高畑充希)が髪を切り落とした重大な意味、ききょう(ファーストサマーウイカ)の衝撃はいかばかりか
呪詛の恐ろしさ
しかし、倫子の計らいは無駄になってしまった。 花山院襲撃事件を調査していた実資(秋山竜次)のもとに、伊周と隆家の祖父であり貴子の父である高階成忠が道長を呪詛したこと、臣下の身では勝手に依頼してはならない呪法を法琳寺に命じて、これも道長を呪詛した報せが入ったからだ。これらが本当かどうかはわからない。この流れだと、詮子の女院としての政治力は各方面に及んでいると見るべきだろう。 そしてやはり、伊周は「呪詛などしておらぬ!」 第13回のレビューで、明子(瀧内公美)が兼家を呪ったときにも書いたが、701年に制定された法律・大宝律令で、呪いは殺人や強盗などと並ぶ凶悪犯罪として定められた。呪詛の疑いで処罰された人物は、皇太子・基皇子を呪詛し国家転覆を謀ったとして自害に追い込まれた長屋王、光仁天皇を呪詛したとして皇后を廃された井上内親王などがいる。2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での阿野全成(新納慎也)の処刑場面も記憶に新しい。 呪詛が恐ろしいのは、その効力ではない。そのひとが呪ったという確たる証拠がなくとも罪が成り立ってしまうところだ。呪符が出てきた。人形が発見された。しかし、本当にその犯人が呪符を置いたのか? 人形を作ったのか? 疑われたら無実の証明は、まずできない。 伊周と隆家が、本当に私と女院様を呪詛したのであろうかと言う道長に安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)が、 「そのようなこと、もうどうでもよいと存じます。大事なのは、いよいよあなた様の世になるということ」 と答えるのも、呪詛がこれまで、政敵を追い落とすために使われてきたことを指しているのではないだろうか。 偽りの呪いについて、大地を踏みしめ邪気を払う反閇(へんばい)呪法を行いながら話す──なんとも不思議な場面だった。 安倍晴明に見放された中関白家、万事休す。しかし隆家は、安倍晴明の言葉どおり、いずれ道長の強い力となり、この国の民を救うのである。それがドラマで描かれるといいなと思っている。