地方ほど「不便だから」で運転継続…“人生100年時代”高齢ドライバーの事情と現状 必要な1人1人の選択
■免許返納を娘が説得「ブレーキを踏むのが遅い」
愛知県津島市で1人暮らしの76歳の鈴木さん(仮名)は、足の関節が痛み、歩くのも一苦労だ。日常の買い物には車の運転が欠かせない。 鈴木さん(76): 事故があってからでは遅いから「もうお母さん乗らないほうがいい、乗らないで」って言われている。でも不便だから、津島は。 車で1時間ほど離れた場所で暮らす50代の長女・ヨシエさん(仮名)は、鈴木さんに運転を控えるよう説得を続けてきた。 長女・ヨシエさん(50代): やっぱり人に迷惑をかけるのが一番怖いなと思っていて。そうなる前に運転はやめたほうがいいんじゃないって、車検が来る度に話しています。 ニュースでシニアドライバーの事故を見るたびに不安が募るヨシエさんは、鈴木さんの運転に、助手席で肝を冷やした経験があるという。 長女・ヨシエさん(50代): ブレーキが遅い、踏むのが遅いと感じます。 鈴木さん(76): 私は早めにブレーキしている。すーっと止まりたいの。 長女・ヨシエさん(50代): 乗っている方はそうは感じなくて、ちょっと怖い。 鈴木さん(76): 怖い?ふーん。 長女・ヨシエさん(50代): ちゃんと止まってくれるんだけど、最終的には。ただ、ブレーキを踏むのが遅い。 鈴木さん(76): 早めに踏んでいるんだけどなぁ。 鈴木さんは、生活のために、免許の自主返納は考えていないという。大切な家族だからこその説得に、心は動くのだろうか。 高齢者の免許返納が進まない背景として、「MS&ADインターリスク総研」の調査で、興味深いデータがある。 世代ごとに「自分の運転に自信がある」と答えた人の割合で、一番高い世代は「80歳以上」で、70%を超えていた。 長年運転してきた「経験と感覚」が、自信となっていることがうかがえる。
■免許返納にも「その人にあった選択を」
愛知県大府市は「認知症不安ゼロのまち」を掲げていて、人それぞれの「リスク」を“客観的な視点で理解してもらおう”という取り組みをしている。 大府市は2021年から、医療機関と連携して「運転技能検査」を始めた。検査は、65歳以上の市民を対象に年に21回開かれている。 バーチャル空間で歩行者や信号に気付いたら、コントローラーでブレーキをする。「危険をどれだけ予測できているか」のデータを数値化し、その増減を見ながら免許返納の基準にしているシニアもいるという。 運転技能検査官: 横断歩道の手前にあるオレンジ色の区間にはいって、手前のところでブレーキボタンを押してくださいね。ちょっと早いですね。もう少し。 男性(78): 今のところ運転は毎日していて、特に不安は感じないけれど、こういう検査で非常に低下してくれば限界なのかなと。そういう基準にできればいいかなと思いますけど。 国立長寿医療研究センターによると、車の運転をやめた高齢者は、運転を続けている同世代と比べ、要介護状態になる危険性が8倍ほど上昇する、というデータもある。 「人生100年時代」といわれる現代では、「何歳になったら免許は返納」といった一律のルールを作るのではなく、その人に合った選択を促している。 大府市 健康増進課 東村亜美さん: 安全に運転が継続できる方は、今後も運転を継続してもらうことで、より社会参加につながると思います。