松任谷正隆と小原礼が語る、前人未到のバンドSKYEの最新アルバム『Collage』後編
これは僕、小原の懺悔だと思って聴いていたんですけどね(笑)
メリーゴーランド / SKYE 田家:詞曲は松任谷正隆さん、歌もそうですね。シンガー・ソングライター。さっきの「Night Crawler」のときに僕が歌うんだったら、こういう歌かなというふうにおっしゃっていて。この「メリーゴーランド」も「Night Crawler」と同じように男の歌みたいな。 松任谷:そうですね。ダメなヤツ。 小原:ダメ男シリーズ2曲。 田家:それはどう思われました? 小原:え、笑ってました(笑)。でもね、この2曲はライブでやったんですけど、ライブでやる度におもしろくなっていくというか、こなれていくというかね。やっていてすごく楽しい曲ですよね。 田家:そういう映画的な情景がある歌。主人公みたいなものをイメージされるんですか? 松任谷:これはイメージしましたね。疲れ果てたサラリーマンみたいな。 小原:真逆だと思う、そういうのと。タバコも吸わないし、ベンチで寝ないし。 松任谷:お酒飲まないしね。酔いつぶれてるからね、この歌は。 田家:自分とは違うけれども、そういう男性がいるだろうなとか。 松任谷:70いくつで歌うテーマだったら、こんな感じかな。 小原:夢がないけど……。 松任谷:夢があるみたいな。上手く言えないんですけど。 田家:こういう映画みたいなものがどこかにあるんですか? 松任谷:いや、僕ジム・ジャームッシュとかが作りそうな世界、あの人が日本をテーマに書いたらこんなのができるんじゃないかなっていうふうには考えますね。 田家:おふたりは奥様がシンガー・ソングライターの大御所でいらっしゃるわけで。シンガー・ソングライターという意識というのはありますか? 松任谷:僕はないですよ。これはバンドでやるので書いた曲なので。全然思ってない。曲を書いて、たまたま僕が歌うっていう感じですかね。 田家:お2人が詞曲を書いてらっしゃるのを奥様方はどうご覧になっているんですか? 松任谷:これがね、小原家と松任谷家はすごい対照的なんです。小原家は奥さんがディレクションしたりするらしいんですよ。 小原:ディレクションというより、僕の歌のエンジニアは亜美ちゃんがやってくれるんですよ。僕の歌を録るのを。 田家:ご自宅にスタジオがあるんでしょうからね。 小原:はい。それでやってくれるので、すごい楽で。でもマンタはユーミンが寝静まった後にこっそり1人でやる。 松任谷:そう。だから、僕が何をやっていたか、彼女は一切知らない。 田家:知らないんだ。 松任谷:出来上がっても知らない。アルバムができたときに初めて「聴かせて」って言われて、渡して初めて聴いてどうかなと。 田家:どうおっしゃっていたんですか? 松任谷:いや、聴いてないです。もう感想、怖くて言えないって感じだと思います。 田家:それはやっぱりある種の恐れ多いみたいな感じがあるのかな。 松任谷:だってここで揉めたら自分のプロデューサーは誰がやるのって話でしょう。 小原:ふふふ。 田家:2人の平穏のためにそれは言わないようにしておいて(笑)。 小原:うちはもうね、全然オープンですよ。曲ができると、大体詞曲が両方できているときが多いので、亜美ちゃんがお風呂から出てきたときに「こんなのできたー」って言って、わーっと聴かせる(笑)。 田家:松任谷由実さんは今回のアルバムはお聴きになっているけども、感想は言わないままで。 松任谷:そのうち言うと思いますけどね。 小原:そしたら感想聞かせてね。 松任谷:わかった。 The Light in the Dark / SKYE 田家:詞曲が小原さん、歌も小原さん。暗闇の中に光がある。アルバムの最後を締めくくるメッセージ・ソング。 小原:はい。これは最後に録った曲なんですけど、たまたま僕がドキュメンタリーを観ていて。LGBT+Qのテーマだったんですけど、そこで当事者たち、その周りにいる人たち、いろいろ言い分もあり、肯定的な部分もあり、そうでない部分もあり、言いたいこともあり、言いたくないこともありという。その光と影とか表と裏とか、珍しくないテーマじゃないですか。でもあまりみんなももろには言わないだろうけど、僕はそれを自分の言葉で日常的に表現できるかなと思って、その詞を書きました。 田家:アルバムの他の曲が全部あって、最後にお作りになった。 小原:そうです。最後に作って、最後にレコーディングした。人々の気持ちの中のいろいろな心の葛藤というか、それを見ている周りの人たちのこととかもなんとなく思い浮かべて、自分なりの言葉にしたかった。 田家:松任谷さんはこの終わり方、いかがですか? 松任谷:これは僕、小原の懺悔だと思って聴いていたんですけどね(笑)。 田家:どんな懺悔ですか(笑)。 小原:まあ、そうとも言えないことはないな。インスパイアされないと、なかなか懺悔もできない。 田家:この曲があることで、アルバムの人格性というのがすごくクリアに見える感じもありましたね。 松任谷:そうね、清らかな感じで終われますよね(笑)。 小原:はははは、清らか。これを録ったとき、マンタと2人でこれ、一番最後の曲だよねって言いながらレコーディングが終わった気がする。 田家:Collageっていうタイトルは? 小原:林がつけました。 松任谷:タイトルとTシャツは林が考えることになってるんですよ。 田家:ジャケットもそうですか? 松任谷:ジャケットはみんなかな。うるさいやつが1人いるんですよ、ジャケットに。 田家:それは(笑)。 小原:それはあまり出てこない人。 田家:そうなんですか。一番そういうことに関心なさそうにも見える。 松任谷:なさそうで一番あるんですよ。 小原:でもたまたまZoomミーティングをみんなでやってたときに、そのアイデアをデザイナーの人が出してくれて、これいいねって全員一致で決まったんです。 田家:タイトルは林さんがわりと早めに出してきた? 松任谷:出来上がってからぐらいな感じだったと思いますけど。でも歌詞の中にもあるんですよね。「Collage」って1曲目の「ホームアゲイン」で。だから、そこから引っ張れたってことだと思います。 田家:それはみなさんも納得という。 小原:ですね。 田家:アルバムの最後はこのアルバムの始まりの曲というふうに言っていいんでしょう。冒頭、前テーマでもお聴きいただいた曲です。「radio SKYE with Raine」。 radio / SKYE 田家:この曲を入れようというのは最初からおありになったんですか? 松任谷:いや、どうしようかって言っていたんですけど、最終的に入れることにしたっていう感じですね。ボーナストラックみたいな。 田家:ヴォーカルのRaineさんを器用されたのは? 小原:最初にキャンペーンソングをって言われたときに候補がいろいろいたらしいんですよね。女性歌手の。どの人も僕らにあまり合わない感じがしていて、それで最終的に誰にすすめられたのかわからないんだけど、Raineはどうかっていうふうに言われて。 松任谷:かけてみようって。 小原:そう、かけてみようって。 松任谷:その人にかけてみようって。声も聴いてないし、そのときは。どんな歌を歌うんだかわからないけど、でも小坂忠さんのお孫さんでしょ、だったらいいかもしれないっていう。 田家:で歌ってもらったら、やっぱりよかった。 松任谷:素晴らしかったですね。 小原:お姉さんがSkyeって言うんですけどね、亡くなっちゃって若くして。字も一緒なんですよね。Skye。それで偶然というか、SKYE with Raineってなっているのは、なんかこれ決められちゃったのかなって。 田家:小坂忠さんがいなかったらこういう集まりもつながり方が生まれなかったかもしれないわけですよね。 松任谷:僕は学校の先生になっていたかもしれないし。 田家:林さんがフォージョーハーフをやるんだってことで、誘われたわけでしょう。 松任谷:縁ですね。縁がこんな歳まで続くとは思わなかったですけど。 田家:はっぴいえんども忠さんがいなかったら、なかったわけですもんね。 小原:だってさ、忠さんは本当ははっぴいえんどに入るはずだったんだよね。 田家:ヘアーのオーディションに行っちゃって。 小原:そうそう。忠さんとは高校生の頃から知り合いだから、林と一緒に。幸宏も。 田家:なるほどね。幼馴染ですもんね、ある種の。 小原:そうです。林とは僕、中学生から一緒なので。 田家:それが70過ぎて(笑)。 小原:知り合って60年ってどういうこと!?って思って。 田家:茂さんがオフィシャル・インタヴューでいいことをして死にたいっておっしゃっていましたね。 松任谷:ほう、何がいいことなんですかね。 小原:鈴木商店でいっぱいものを売ることかなあ。 田家:ははははは! でもいっぱい語りに残すことはおありになるでしょうしね。松任谷さんはオーチャードホールのステージで僕らもキャリアを積もうと思いました。 松任谷:これからですからね。SKYEは始まったばかりですから。 小原:まだ2枚目ですから。 松任谷:全然足らないですよね。 小原:始まったばかりですね。 田家:この言葉で終われることがうれしいです。ありがとうございました。 松任谷&小原:ありがとうございました。