「現実はフィクションを超えてしまった」のか…アメリカ映画が大統領選を描けなくなっている、深刻な現実
アメリカで、国内政治を直接的に描く作品が減少している
国民の分断が進行して、国内は内戦状態に陥っている。FBIを解体して1年以上メディアの取材に応じていない大統領は、現在の憲法では禁じられている3期目の任務中。そんな近未来のアメリカを描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が10月に日本でも公開されると、興収ランキングで初週1位となるヒットを記録した。 【画像】 なぜ日本はアメリカの「いいなり」なのか?知ってはいけないウラの掟 新興の独立系スタジオであるA24が製作した同作は、アメリカ本国でも今年4月に公開されて2週連続でボックスオフィス1位となった。一方で、かつて社会現象にまでなったマイケル・ムーアの『華氏911』(2004年)に代表されるように、ある時期までのハリウッドのメジャースタジオはアメリカ大統領選が近づくと政治的な題材を扱った作品を積極的に世に送り出していたが、今回そのような動きはあまり目立たない。2016年の大統領選でドナルド・トランプが勝利して以降、今回を含む2回の大統領選を巡ってアメリカで何かが起こる度に「現実がフィクションを超えてしまった」というフレーズをよく目や耳にするようになった。アメリカの国内政治を直接的に描く作品が減少しているのは、本当に「現実がフィクションを超えてしまった」からなのだろうか? 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の劇中では、アメリカの50州のうち19の州が分離独立を表明していて、民主党の牙城であるカリフォルニア州と共和党の牙城であるテキサス州が「西部勢力」という名の下に手を組んでいる。そんな現実から意図的に距離をとった設定からは、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が単純に「数年後のアメリカ」を正確に予見することを狙った作品ではないことがわかる。 もっとも、監督・脚本のアレックス・ガーランドは同作が「ドナルド・トランプ以降」の世界を描いた作品であると明言していて、先日来日した際に自分がおこなったインタビューでも「アメリカの大統領がファシスト的な傾向を持っている時、それがどれほど危険であるかを、私たちの世代はぎりぎり理解することができます。だからこそ、私はこの映画を作ったのです」と語っていた。しかし、作中の大統領には外見も言動も直接的にトランプを思わせるところはなく、そもそも共和党の大統領であるか民主党の大統領であるかも明示されない。