“手製の水パイプ”で子どもが大麻を吸引…タイを「ほほえみの国」から「ドラッグの国」に変貌させた「大麻合法化」の知られざる現実
大麻問題とは「THC乱用問題」
知ってのとおり、大麻とは「麻」のことを指す。日本を含む多くの国で、茎は古くから繊維の材料として、種子は食料として重宝されてきた。 最近ではプラスチックの代替品など、産業用資材としての利用も進み、医薬品としての効果も評価されている。アメリカやイギリスでは大麻成分から開発した医薬品の市販が進んでいる。国連は大麻の規制カテゴリーを「医療用の用途のない、最も危険な薬物区分」から外し、「引き続き規制するがコカインやあへん等と同じように医療用途は認める」との判断を下している。日本も2023年に医薬品としての利用を可能とするため、大麻取締法の改正を行い、今年12月12日には施行される予定だ。つまり、大麻は元来“有用なもの”なのである。 他方で、大麻成分の一種類であるTHCは幻覚作用や依存性を有しており、長い間、乱用薬物として使われてきた歴史がある。つまり、大麻問題とはあくまでも“THC乱用問題”であり、この度の日本の改正大麻法でも“THC”に焦点を当てている。その意味で、時代に即した法律となってきたとの印象を受ける。 前述した通り、近年、諸々の事情から一部の国や州で大麻政策の転換、いわゆる合法化が進められ、わが国も改めて法整備に着手している。このように大麻についての議論が盛り上がっているいまだからこそ、筆者が重視してもらいたい観点がある。それは「子どもたちへの影響」に他ならない。
保険当局が警鐘を鳴らす事態に
海外では大麻のジョイントやリキッドだけに留まらず、多様な種類の「大麻菓子(クッキー、チョコレート、グミ)」が次々と市場に投入され、これが新たな問題を生んでいるのだ。実際、子どもが誤飲する事故が頻発し、アメリカ医学誌≪小児科学(Pediatrics)≫や保健当局が次のように警鐘を鳴らす事態になっている。 〈大麻入り食品を誤食する幼児の数がこの5年で約15倍に激増〉 〈5歳以下の子どもが大麻入り食品を摂取した事故は、2017年には200件余りだったのが、2021年には3050件を超えている〉 〈5年間の調査期間中に大麻入り食品を摂取したと報告があった子どもは約7000人で、約8%が集中治療室での措置を必要とし、15%近くが入院した。主な症状は、昏睡などの中枢神経系の機能低下や頻脈、嘔吐など〉 一方、カナダでは娯楽用大麻が合法化されて以来、10歳未満の子どもの意図しない大麻中毒による入院が6.3倍に増加していると報告されている(オタワ大学などの研究報告)。さらに、合法化政策の評価を行った専門家委員会が「合法化に欠陥あり」の判断を下したとの情報もある。 NY市では「誤飲事故防止」を繰り返し広報するとともに、年中無休、24時間体制の「NYC poison Control Center(NY市中毒管理センター)」を開設して対応に追われている。ペットが大麻製品を摂取する事故も多発しており、「ペットが大麻製品を摂取した場合は、直ちに獣医師に連絡してください。大人は常に責任を持ってください」とペットの安全確保への取り組みも強化している。