最新の研究で判明した、「更年期トラブル」に“漢方”が効くメカニズム。女性の不調に効く「3つの漢方薬」とは
冷え症や月経困難症・PMS・更年期障害など、女性の体の不調に対して処方されることの多い漢方薬。古くから伝わる”薬”は本当に症状の改善に役立つのか、そしてなぜ効果を生むのか。 【更年期指数チェックリストを見る】「更年期障害」になりやすい性格、環境とは? 誰もが一度は考えたことのある疑問に最新科学で迫った新書『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム』(著:山本高穂、大野 智/講談社)から、女性の体調不良に対して処方されることの多い当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸について説明した一部を抜粋してお届けします。
女性の健康に役立つ漢方薬 ―当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸
女性の多くが悩む症状に、冷え症や月経困難症、更年期障害の症状(更年期症状)などがありますが、こうした症状は西洋医学では治療が難しいケースがあるため、古くから漢方薬が多く使われてきました。また近年では、女性の社会進出が進んでいることもあり、月経不順や月経困難症などの症状の改善に対する、漢方薬の有効性が注目されています。 筆者(山本)が女性の悩みに処方される漢方薬について最初に取材したのは、漢方専門医の今津嘉宏医師のクリニックです。今津医師によると、女性が悩むことの多いこうした症状では、東洋医学の考え方のひとつである瘀血(おけつ)=「血流が滞った状態」が根本にあると言います。舌の状態を観察する舌診(ぜっしん)で血流の状態をチェックしますが、漢方薬の服用を続けて症状が改善した患者は、治療前と比べ舌の血色が良くなっていたことが印象に残っています。それでは、病院でも処方されることが多い当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)について見ていきましょう。
1.当帰芍薬散―体温の上昇とTRPチャネル
生薬:シャクヤク、ソウジュツ(ビャクジュツ)、タクシャ、ブクリョウ、センキュウ、トウキ 当帰芍薬散には、鎮痛作用を持つシャクヤク、抗炎症作用を持つソウジュツ、免疫を活発にする作用を持つトウキなど6種類の生薬が含まれています。 当帰芍薬散は、主に冷え症や月経不順、月経困難症などに処方されています。臨床試験では、貧血の改善や、レイノー病における低下した皮膚温の改善、また、月経困難症の自覚症状を軽減させる効果などが報告されています。 そして血流や冷え症を改善するメカニズムについては、自律神経への作用をはじめ、さまざまなアプローチの研究が行われています。そのなかで筆者(山本)が注目するのは、日本の漢方薬メーカーであるツムラの研究チームによる動物実験です。第1章でも登場した、体の温度センサーのTRPチャネルへの作用を介したメカニズムを調べています。 実験ではまず、ラットに当帰芍薬散を投与しました。すると、脊髄にある後根神経節(DRG)と呼ばれる神経細胞の集団から、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の放出が高まることで血流が増加し、それに伴って体温も上昇していました。CGRPは、中枢神経や、心臓、血管などの神経の終末に存在し、血管拡張をはじめ神経系や免疫系にさまざまな作用をもたらすことが知られています。 では、なぜ当帰芍薬散によってCGRPの放出が高まったのでしょうか。研究チームが調べたのが、DRGなどの神経に存在するTRPチャネルのひとつで、TRPA1と呼ばれる温度センサーです。TRPA1は、人では活性化する温度は不明ですが、動物では17度以下で活性化することがわかっています。また、メントールなどの刺激成分でも活性化されることが明らかになっていて、いくつかの生薬の成分でも活性化が確認されています。 そこで、このTRPA1のはたらきを失わせる薬剤を投与したマウスに当帰芍薬散を飲ませたところ、血流改善作用が失われました。つまり、当帰芍薬散の血流改善作用のひとつには、TRPA1がはたらくことによってDRGの活動が高まり、それによってCGRPが放出されるというメカニズムがあることが確認されたのです。 さらに、TRPA1を活性化させる当帰芍薬散の成分を詳しく調べたところ、ソウジュツに含まれるアトラクチロジンであることも突き止められました。近年、生理学や薬理学の分野で注目されるTRPチャネルには、さまざまな温度帯や物質に対応する種類が知られており、漢方薬に含まれる生薬の作用にも関わっていることがわかってきています。 今後の研究の進展によって、漢方薬の新たな効果やメカニズムの発見が進むことが期待されています。