最新の研究で判明した、「更年期トラブル」に“漢方”が効くメカニズム。女性の不調に効く「3つの漢方薬」とは
2.加味逍遙散―不安症状の改善に関わるゲニポシド
生薬:サイコ、シャクヤク、ソウジュツ(ビャクジュツ)、トウキ、ブクリョウ、サンシシ、ボタンピ、カンゾウ、ショウキョウ、ハッカ 加味逍遙散には、抗炎症作用を持つサイコや、鎮痛作用を持つシャクヤク、血小板凝集抑制作用を持つボタンピなど、10種類の生薬が含まれています。加味逍遙散は、月経不順や更年期症状などによく用いられます。また、ストレスによる頭痛やめまい、不安、不眠などの症状にも処方されています。 更年期障害の患者を対象にした臨床試験では、ホルモン補充療法を受けたグループに比べ、加味逍遙散を服用したグループでは、入眠障害、興奮・イライラ、めまい、手足のしびれが有意に改善されることが報告されています。また、複数の症例報告で、月経前の抑うつ症状や更年期の不安症状の改善に有効とされています。 では、加味逍遙散の精神症状に対するメカニズムは、どこまでわかっているのでしょうか。人為的にうつ症状にしたラットを使った実験では、加味逍遙散を投与した場合、うつ症状による活動の停止時間が短くなり、症状が改善されることがわかりました。また、記憶や行動に関係する脳の海馬を詳しく調べたところ、新たな神経細胞が出現していることも確認されました。つまり、加味逍遙散は、脳の神経細胞にはたらきかけることで、精神症状を改善している可能性が示されているのです。 また、マウスを使った別の研究では、加味逍遙散の投与によって不安から生じる行動の時間が低下することも確認されています。そして、この研究では、どの成分が不安症状の改善に関係しているのか、加味逍遙散に含まれる10種類の生薬を個別に投与して検証しました。その結果、サンシシに含まれるゲニポシドという成分が不安症状の改善に関係していることが突き止められたのです。ちなみに、サンシシは、梅雨時に白い花を咲かせるクチナシの実を乾燥させた生薬です。 サンシシの主要な成分であるこのゲニポシドについては、体内でゲニピンという薬理成分に変換され、肝臓の機能を高める作用や抗炎症作用をもたらすことが知られています。さらに近年、ゲニピンの薬理作用として、脳の神経細胞の保護や免疫機能の改善との関わりが明らかになってきており、さらなる解明に注目が集まっています。もちろん、加味逍遙散の効果は、サンシシだけによるものではありませんが、漢方薬が持つ多様なはたらきを理解していくうえでゲニピンの効果やメカニズムは大変興味深い研究テーマとなっています。