最新の研究で判明した、「更年期トラブル」に“漢方”が効くメカニズム。女性の不調に効く「3つの漢方薬」とは
3.桂枝茯苓丸―のぼせと冷えを解決するのはなぜ
生薬:ケイヒ、シャクヤク、トウニン、ブクリョウ、ボタンピ 桂枝茯苓丸には、発汗・解熱作用を持つケイヒや鎮痛作用を持つシャクヤク、血小板凝集抑制作用を持つボタンピなど5種類の生薬が含まれています。 桂枝茯苓丸は、先ほど紹介した瘀血(おけつ・血流が滞った状態)に用いられる代表的な漢方薬で、月経困難症、月経不順、更年期症状、冷え症などに処方されます。そして臨床試験で注目されているのは、女性の更年期症状のひとつ、ホットフラッシュの改善です。ホットフラッシュは、主に女性ホルモンのエストロゲンの分泌が減少することで自律神経のはたらきが乱れ、顔や上半身のほてりや発汗が起こる症状です。また、ホットフラッシュの多くは、逆に足先などに冷えを感じるケースも見られます。ある研究では、桂枝茯苓丸を服用したグループは、女性ホルモンを補充する治療を受けたグループに比べ、のぼせ・ほてりの改善(顔の血流の低下)および、冷えの改善(足の指先の血流上昇)で、より高い結果が得られています。 では、なぜ上半身と下半身で真逆とも言える症状改善が見られるのでしょうか。実はまだ、この現象を説明できる明白なメカニズムは示されていませんが、考えられる説のひとつは、全身の自律神経のはたらきや血流の改善によって、上半身と下半身のアンバランスな状態が緩和されるというものです。そして、この考え方において注目されている作用のひとつが、桂枝茯苓丸に含まれる生薬のケイヒが持つ血流改善作用です。 香辛料に使われるシナモンとしても有名なケイヒは、強力な生理作用があり、近年の研究では、ケイヒに含まれるシンナムアルデヒドに、血管の内皮細胞のはたらきを改善する作用があることが明らかになってきています。この細胞は血管の内側にあり、酸化窒素(NO)などの物質を産生して血管の収縮・弛緩を調節するなど、血流の維持に重要な役割を担っています。ところが、老化や糖尿病(高血糖)などによる酸化ストレスを受けると、そのはたらきが低下し、血流低下や動脈硬化をもたらすことがわかっています。動物を使った研究では、シンナムアルデヒドが血管内皮細胞への酸化ストレスを防ぐことで血流を維持・改善し、さらに動脈硬化を防ぐことも確認されています。桂枝茯苓丸は、こうしたケイヒが持つ血管への作用を中心にして全身の血流を改善し、女性に多い症状を改善していると考えられているのです。
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