奥山由之×生方美久が映し出す愛おしい眼差し。『アット・ザ・ベンチ』の会話劇に通底するもの
現在全国ロードショー中の映画『アット・ザ・ベンチ』は、温かさとユーモアが交差する会話劇だけで約90分間魅せる最新作。観終わった後、気にも留めないいつもの景色が、きっと少しだけ異なって見えるはず。豪華キャストと最旬スタッフが贈るニューシネマの裏側を監督の奥山由之さん、第1編&第5編の脚本を担当した生方美久さんにインタビュー!
日本映画界を担う職人たちが紡ぐ、5つのオムニバスストーリー
「いつかあのベンチでこの作品を野外上映したいんですよね」。インタビュー冒頭、そう呟いた奥山由之監督。ひと足さきに作品を鑑賞させてもらった編集部は、その一言に歓喜し、興奮して勝手に盛り上がってしまった。それほどに観る側も思い入れが濃く深くなる本作は、登場人物たちから発せられる言葉が心地よく、淡く輝く美しい映像世界にいつまでも浸っていたいと思わせる作品。 11月の生方美久さんの連載「ぽかぽかひとりごと」でも綴られている、オムニバス長編映画『アット・ザ・ベンチ』が現在公開中だ。当初、東京と大阪の計3館のみだった上映館が、公開を待ち望む人の声を受けて続々と上映館が決まっている。本作は、2023年9⽉30⽇に第1編、2024年4⽉27⽇に第2編がVimeoで無料公開となり⼤きな反響を呼んだ“あの作品”に、新たに制作された第3~第5編を加えたオムニバスストーリー。舞台は都心から少し離れた二子玉川の川沿いにぽつんとあるベンチ。 「僕自身このベンチの近くで幼少期から暮らしていて、哀愁感のある頼りない佇まいのベンチに対して、気がついたら愛着が湧いていて。2年ほど前にベンチの近くで大きな橋を作る工事が始まったときに、改めてハッとしたんです。東京って部分的に変わっていって、気づいたらなくなってしまう場所や、好きな景色の記憶が知らずうちに塗り替えられていることってあるよなと。もちろんそれも東京“らしさ”として、変化を惜しまないという点で魅力ではあるのですが、今、このベンチを作品として残しておかないと後悔するかも、と思ったときには動き出していて。変わりゆく景色のなかで、変わらずそこに在るベンチを舞台に、ある日のある人たちの会話を見つめる作品を作りたいと思いました」(奥山さん)