奥山由之×生方美久が映し出す愛おしい眼差し。『アット・ザ・ベンチ』の会話劇に通底するもの
そんなふうに、この映画に関わるすべての人、1人ずつに奥山さんが声をかけて制作に至った本作。直接会って、ベンチを一緒に見にいって、おしゃべりをする。生方さんも同じ体験を経たそうだ。 「奥山さんのアトリエに集合して、舞台のベンチに一緒に行ったんです。私も奥山さんも人見知りだから、横並びでは座らずにベンチを眺めながらボソボソと…(笑)」(生方さん) 「そうですね、本当に探り探り。地面に言葉を投げかけていましたね(笑)。スタッフの方々をひとりずつベンチに連れていって、どういった作品を作りたいのかじっくりと説明させていただきました。あそこで皆さんそれぞれと過ごした時間は、この作品にとっていい影響があったんじゃないかなと思っています」と頷く奥山さん。生方さんにお願いした理由を尋ねると。 「生方さんの作品には、登場人物、ひいては物語に対して、背中から手を添えるような、見守る眼差しを感じるんですよね。なのでアット・ザ・ベンチを観た方々にも、第1編と第5編で、登場人物、ベンチ、物語が紡ぐ情景に対して愛おしい眼差しを向けてもらえると、ベンチを主体とした作品の始まりと終わりとして理想的だなと思っていたので、生方さんに書いていただけて本当によかったです」(奥山さん) そんな奥山さんの想いを一粒たりとも落とさずに掬い上げたのが、生方さんが書く始まりと終わりをつなぐ第1編と第5編。広瀬さん演じる莉子と仲野さん演じる徳人の幼馴染がただベンチに集合して久しぶりに会話をする様子が、やさしく丁寧に描かれる。 「第1編だけ先に書いて、間の2、3、4の脚本を読ませていただいたうえで第5編を書きました。驚いたことに、第2編の岸井ゆきのさんが演じる菜々ちゃんが、私が書いた莉子と友達という設定にしてくださっていたんです。お話のなかで『莉子が~』って言うと、岡山天音さん演じる貫太くんが『莉子ちゃんね』って言ってくださっていて。よく見ると買い物袋も同じで、私がすっごい適当につけたローカルスーパーの名前が他のエピソードに横断しているのをみて感動! それぞれ独立した短編なんですが、同じ世界線なのがとにかく嬉しかったですね」(生方さん)