奥山由之×生方美久が映し出す愛おしい眼差し。『アット・ザ・ベンチ』の会話劇に通底するもの
自主制作かつ奥山さんの監督デビュー作。奥山さんは生方さんと面識はなかったものの、真っ先に生方さんに書いていただきたいと思ったのだそうで。 「企画書とともにお手紙みたいなDMが届きました。いちばんの決め手は、私の作品を観てくださった感想と、どうして私に書いてほしいのかっていうことを綴ってくださっていたから。ご連絡をいただいたのがドラマ『silent』が終わったタイミングで、ちょうどお仕事の依頼がまとまってやってきたときだったんですね。そんななか、こういった映画制作は特殊で興味深かったですし、奥山さんがきちんと依頼理由を綴ってくださったことにグッときて。しかも締め方が最高に面白かった(笑)」(生方さん) 「ちょっと恥ずかしいんですけど、言い訳させてください(笑)。面識のない自分がいくら生方さんの作品の魅力を綴っても、数多ある依頼メールの中で流れてしまうのではないか、目に留まらないのではないか、ということと、固い文章のまま終わって僕自身の人物像が伝わらないと判断がしづらいのではないかと思って、なにかフックがありたいということで、文末に好きな楽曲を書いたんです。好きな曲ってその人の人柄を想像しやすいから安心してもらえるかなと思って。けれど今読み返すと、最後に唐突に一文だけ書かれているから、全体像としてとても怖い文体になっていますね(笑)」(奥山さん) お腹を抱えて笑うふたりから、仕事のパートナーとしての、そして古くからの友人であるかのようなあたたかさが広がる。続けて生方さんは奥山さんの印象を語る。 「奥山さんとは同世代なんですが、写真家として若い頃から賞を獲っている有名な方だったので、実は最初ビビっていたんです(笑)。私が脚本家デビューしたのが29歳で、連ドラデビューとしては若いといわれるんですが、写真家や役者さんで考えるとだいぶ遅いし、この世界を全然知らない。だから同世代だけど、どうしたら対等に話せるかなって探ってたんです。あと、いただいたDMに広瀬すずさんと仲野太賀さんをキャスティングしたい、と書かれていて、やっぱり奥山さんってすごい人と過度に思いすぎちゃって(笑)。でも実際にお会いしたら、やわらかい感じの方で、安心したんです」(生方さん)