「わしもやりゃあできるんじゃのう」でも90代父は道の真ん中で全く動かなくなり…娘が目撃した「老老介護」の“切実さ”
娘としては、知るのは辛い事実だけれど、でも知れてよかった。私は、父へのせめてもの償いとして、買い物袋をそのまま入れて押して運べるシルバーカー(手押し車)を、プレゼントすることにしました。最初は、 「わしゃあ、そんな年寄りくさいもんはいらん。カッコ悪いわ」 と拒否していた父でしたが(私が「いや、お父さんはじゅうぶん年寄りなんよ」と心の中でツッコんだのは言うまでもありません)、使ってみると気に入ったらしく、今は買い物だけでなく、どこへ行くにもシルバーカーと共に出かけています。
90代にして一気に開花した父の家事能力
他にも父は、驚くほどいろんなことを始めていました。 あの日買って帰ったサバは、自分で焼いて、ちゃんと大根おろしを添えて母にふるまっていました。母は父が台所に入ってくることにまだ抵抗があるようで、うろうろと父の後ろを歩き回り、自分の存在をアピールしていましたが、目の前のサバを焼くことに集中している父はまるで気づきません。仕方なく母は、さも父を監督しているようなポーズで、 「おいしそうに焼けたね~」 と、父の手際のよさを、ちょっと悔しそうにほめていました。 朝はパン食なので、父は母と二人分のトーストを焼き、牛乳を温め、フルーツを欠かさず用意して、よく母の好きなリンゴをむいてやっていました。私は父が包丁を使う姿を初めて見ました。最初のうちは手つきも危なっかしく、怪我しやしないかと見ている方がハラハラ。仕上がりも、リンゴの皮がところどころに残る雑なものだったのですが、続けるうちに包丁さばきもどんどん上手くなってゆきました。 へえ……人は90代になっても、こんなふうに進化するものなんだ。私は、父の内に秘められていた生活力の高さに、感動すら覚えました。そして父自身も、 「わしもやりゃあできるんじゃのう」 90代にして一気に開花した家事能力に、自分自身で驚き、ちょっと嬉しくなって浮かれているような感じすらあります。そこがまたかわいらしいのです。 「もたもたしとったら上官に殴られるけん、必死で…」80代の母が認知症に→父親が90代で家事全般をテキパキこなすまで へ続く
信友 直子/Webオリジナル(外部転載)
【関連記事】
- 【続きを読む】87歳の母は「もう死んじゃろうか思うわ」と…実家に帰ると洗濯機から膨大な量の汚れ物が「うわあ、くさいねえ」
- 【続きを読む】90代の父は母の異様な寝姿にギョッとするだろうか? 認知症になった80代の母を前に父が放った“意外なひとこと”
- 【続きを読む】「もたもたしとったら上官に殴られるけん、必死で…」80代の母が認知症に→父親が90代で家事全般をテキパキこなすまで
- 「僕は、夫失格なのだろうか」酒の量が増え、一家心中に共感したことも…大山のぶ代(90)の夫が明かした「妻が認知症になる苦しみ」
- 【追悼】89歳の妻を1人で……財津一郎さんが語っていた“老老介護”の現実「大事なのは絶対に暗くならないこと」