YOASOBIの「アイドル」とは安倍晋三のことである…支持者を熱狂させ批判者の心をかき乱した悲劇の宰相の正体
■安倍氏の話は面白すぎる 安倍氏が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想も継承し、さらに発展して「自由で開かれた国際秩序」という場面も出てきたが、これはウクライナやガザなどインド太平洋にとどまらない地域で有事が勃発しており、地球全体で秩序を保とうとの発想で、安倍路線を否定するものではない。また岸田総理は「増税メガネ」と揶揄されたが、安倍政権期は2度も増税している。 このあたりの混乱を整理しないままに、安倍氏は突然世を去ってしまったため、置き去りにされた保守派の面々は右往左往するばかりとなってしまったのではないか。 もう一つ、これは雑誌だけにとどまらないが、安倍氏と岸田氏の露出の差が大きくなった理由として、考えられるのは「安倍氏の話が面白すぎる」という点だ。 安倍氏はとにかくエピソードトークがうまい。筆者も取材した際に聞いたが、「誰がいつどこで、誰に何を言った」という具体的な話を再現する能力が高いのだ。メディア人ならずとも、こうしたエピソードトークは魅力であろう。 ゆえに雑誌のみならずテレビやウェブメディアから声がかかるし、本人も喜んで登場していた。「え、こんな番組に?」と思うようなところにまで出張っており、驚くべきことに吉本新喜劇にまで出演した。 ■岸田元首相の残念だった点 さらには本人発に限らず、支持者や親交のあるメディア人が、「安倍さんがこう言っていたよ」などと逸話を広めるのである。それはエピソードが面白いからであり、「安倍さんから聞いた」ことを自慢したいからでもある。 安倍氏は電話魔で、あらゆる人に直電をかけていたといい、「総理から電話があったんだけど……」と得々と話す人もいたと聞く。 一方、岸田氏にも特に外交の場面での様々な特筆すべきエピソードがあるはずなのだが、漏れ伝わってこないし、自身がテレビや雑誌で披露している場面を見聞きしたことがない。 岸田氏の著書『岸田ビジョン』(講談社)には「石原伸晃がシェーカーをふるうドライマティーニの会」などの面白い話が出ていたのだが、総理になってからはあまり出てこないのは残念だった。 これはつまるところ発信力の弱さと重なっており、せっかくの功績も、岸田氏の人となりも、国民に十分伝わらなかったのではないか。 ---------- 梶原 麻衣子(かじわら・まいこ) ライター・編集者 1980年埼玉県生まれ、中央大学卒業。IT企業勤務の後、月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経て現在はフリー。雑誌やウェブサイトへの寄稿のほか、書籍編集などを手掛ける。 ----------
ライター・編集者 梶原 麻衣子