10万円でフルトラ環境が手に入る『PICO 4 Ultra』は“買い”なのか? 『VRChat』ユーザーが本音でレビュー
9月20日に発売となったPICOの新デバイス『PICO 4 Ultra』。これは従来モデルの『PICO 4』からMRにさらに特化させたデバイスとして登場したヘッドマウントディスプレイだ。販売価格が8万9800円で、8万円以下で売られているMeta『Quest 3』と比べると、解像度や重量などスペックが近い分、少し割高に感じるかもしれない。 【画像】自宅の環境でアバターの全身を動かせる フルボディトラッキングを試す様子 それでも注目したいのが、『PICO 4』および『PICO 4 Ultra』専用トラッカー『PICO Motion Tracker』の存在。フルボディトラッキング(フルトラ)用に使えるトラッカーが1万1800円という価格で同時発売されるのだ。つまり、『PICO 4 Ultra』と同時に購入しても約10万円という破格の金額でフルトラ環境が揃うということ。 昨今注目を集める『VRChat』を始めたばかりで、そろそろVRデバイスが欲しいと思っている方や、デバイスの買い替えを考えている方にとって、かなり気になるデバイスなことは間違いないだろう。 今回、『PICO 4 Ultra』本体と専用トラッカー『PICO Motion Tracker』をお借りしたので、『VRChat』ユーザーである筆者がその使い心地を本音でレビューしていこうと思う。 体験してみた率直な感想だが、約10万円でQuest 3クラスのHMDとトラッカーをまとめて購入できるというのは、今まさに『VRChat』に興味を持ってVR機器購入を検討中の方に、かなりオススメできる。 正直筆者は「『Quest 3』の対抗馬はしばらく出てこないだろう」と思っていたのだが、まさかここまで良い品物が出てくるとは……。素直に驚かされた次第だ。 ■さっそく『VRChat』で試してみる 『PICO 4 Ultra』では、PICOストアで配信されているゲームはもちろん、専用アプリ『Pico Connect』を介してPC接続をすればSteamVRのゲームで遊ぶこともできる。しかし、VRデバイスを購入した方が楽しみたいものといえば、やはりいまホットな『VRChat』だろう。 さっそく『VRChat』での使い心地を確かめるべく、まずはセットアップから。 専用トラッカー『PICO Motion Tracker』はコンパクトな箱に入っている。 セットアップ自体は非常に簡単で、ほかのトラッキング用デバイスを利用したことがある方であればきっと驚くだろう。ものの1分でセットアップが終わってしまった。 両足首にトラッカーを装着し、トラッカー本体(丸い部分)のボタンを長押ししてペアリングを実行。その後、トラッキング用のアプリでキャリブレーションをおこなう。 キャリブレーションの手順は正面を見ることと、下を見ることだけなので、こちらもものの数分で終わる。さっそく『VRChat』へログインしてみることに。 ソファに座ってくつろいだり、足をのばしたりが簡単にできる! 『PICO Motion Tracker』は、トラッカーに内蔵されたセンサーが取得した位置情報をもとに、AIを活用して疑似的に他の部位の動きを想定する「マルチモーダルAIトラッキングアルゴリズム」という機能を備えている。これによって、VR側のモデルを動かしているらしく、トラッカーを装着していない腰や膝もまるでトラッキングしているかのように曲がってくれるので、たとえばソファに座ってくつろぐ、なんてことも可能だ。 ちょっとした動きではあるものの、フルトラに憧れるユーザーがやりたいことの筆頭である普通に椅子にすわって足を伸ばしたり、足を組んだりする、という事ができるというわけだ。しかし、両足首にしかセンサーを取り付けていないのに、ここまで動きを補完してくれるとは、素直に驚きだ。 ただし、足を良い感じの高さに上げて窓のフチに足をかけたり、階段をのぼってみたりするポーズはなかなか難しかった。繊細な動きをしようとするとトラッキングが飛んでしまうこともあり、身体の動きに完全に連動させているわけではないことは覚えておくべきだろう。 またMR機能もある『PICO 4 Ultra』は、ハンドトラッキングが使えるのもうれしいポイント。指を自由に動かせるのは楽しいのだ(ただし、現状ではPCVRモードで接続するとハンドトラッキングが効かないので、その点には注意したい)。 一方で、ハンドトラッキングの精度自体には頼りなさを感じた。喋っているだけなら問題ないが、カメラを使用したり、指のジェスチャーで移動しようとしたりすると、意図した通りの動きにならない事が多い。この辺りは今後の改善に期待したい。 また、腰のトラッカーがない状態に不足がないとは言いきれない。『PICO Motion Tracker』はAIによって動きを補完されているが、腰にトラッカーを付けた状態の6点、10点のトラッキングを体験したことがある方であれば、どうしても身体性の再現では見劣りするだろう。 ゆくゆくはフルトラでダンスなどの複雑な動きをしたい、と考えている方はVIVEトラッカーUltimateや、Haritora、もしくはmocopiなど別の機材の導入を考えた方がいいかもしれない。 とはいえ、これはあくまで本格的にフルトラを楽しみたい場合の話。『VRChat』にハマった方の多くがヘッドセットの次に欲しくなるものといえばフルトラ環境になると思う。価格が安い部類にあたる『HaritoraX』でさえ3万円を超える中で、1万1800円という価格帯でフルトラ環境が手に入るというのは破格もいいところ。 使用可能な機材こそ限られるものの、1万円代という手の出しやすい金額と、取り回しのしやすい使い心地でここまで動けるならば「買い」だといえる。 ■肝心の『PICO 4 Ultra』本体性能は? では、肝心の『PICO 4 Ultra』の性能はどうだろうか。本機は単なるVRデバイスではなくMR機能が追加されたVR/MRデバイスなので、このあたりは『Quest 3』と近いものを感じるところ。MRモードの表示は『Quest 3』と比べると少しノイズを感じるが、筆者が普段愛用している『Quest Pro』と比べるとかなり綺麗に表示されている。 率直な感想でいえば、MR対応のゲームで遊んだり、仮想のデスクトップとして使おうと考えている方には『Quest 3』の方が適している。スイートスポット(視界がクリアに見える範囲)に関しては『Quest Pro』と比べても狭いといえば狭いが、個人的に気になるレベルではなかった。このあたりは個人の好みと慣れの部分が大きいかもしれない。 ところで筆者は普段から眼鏡を着用しているため、眼鏡を掛けたままゴーグルをかぶれるかどうかは気になるポイントなのだが、わりと大きいフレームでもすんなりとかぶれたのはうれしいポイントだった。『Quest 3』と比べてもかなりゆとりのある設計だ。 重量に関しては意外な発見も。515gの『Quest 3』に対して『PICO 4 Ultra』は580gと、重量がやや重いのだが、総合的な付け心地は『PICO 4 Ultra』の方が良くと感じられた。本機は『Quest 3』の別売りパーツのであるElite ストラップのようなダイヤル式のストラップが標準で付属しているのだが、この重量バランスが良く出来ている。 後部にあるダイヤルをまわしてバンドを締める形で装着するストラップは、後頭部をしっかりとカバーしてくれるだけでなく、後頭部の位置にあるバッテリーがカウンターウェイトになっているためバランスに優れている。ゴーグル面に重量が偏っておでこや頬骨が圧迫される状態(いわゆるフロントヘビー)にならないため、着用していて重さが気になることはなかった。 一点、個人的に気になるポイントといえばイヤホンジャックがないこと。イヤホンを使用したい場合はBluetoothイヤホンを接続する必要がある。 ■結論:初めてのヘッドセットなら『PICO 4 Ultra』は「買い」です! 結論からいえば、『PICO 4 Ultra』は「買い」だといえる。特に、最近『VRChat』に興味を持って「これから初めてのヘッドセットを購入する」という方であれば、とりあえず『PICO 4 Ultra』を買っておいて、足を動かしたくなったら『PICO Motion Tracker』を買い足すという順番が負担も少なくオススメ。 『VRChat』上で音楽系イベントに行ったり、飲み会をしたりするようになると「足を動かしたい!」と感じる人もいるだろうが、そういった用途であれば『PICO 4 Ultra』と『PICO Motion Tracker』の組み合わせで十分に要望を満たせるだろう。 『PICO 4 Ultra』はこれからVRデバイスを購入しようと考えている方にとっての入門機として、『Quest 3』に匹敵する魅力的なヘッドセットだ。興味のある方はぜひお近くの家電量販店などで触ってみてほしい。
SASAnishiki
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