「大手まんぢゅうを育てて鍛える」 岡山の老舗6代目がカフェやソフトクリームで広げた特化戦略の幅
ソフトクリーム発売の狙い
大岸さんがまず考えたのは、岡山市内の工場の店舗でオリジナルのソフトクリームを売ることでした。「ソフトクリーム目当てで訪れる家族連れなどに、できたての大手まんぢゅうを知ってもらうきっかけになったらと思いました」 試行錯誤を重ねて生みだしたのが、大手まんぢゅうに使うあんこと甘酒を、クリームに混ぜ込んだ商品でした。 「ソフトクリームに大手まんぢゅうを盛り付けるような商品は他でもできます。見た目はソフトクリームで、味は大手まんぢゅうという方向性が決まると、あんこや甘酒のバランスを調整し、一気に走り出しました」 2019年に発売を始めると評判を呼び、夏休みには工場に行列ができるようになりました。
美観地区にカフェをオープン
もう一つの仕掛けが2020年3月、倉敷市にある全国有数の観光地・美観地区に開いた「大手まんぢゅうカフェ」でした。 元々は、岡山市のコーヒー店「暮らしと珈琲」と、大手まんぢゅうに合う専用コーヒーを開発したのが始まりでした。そんなとき、美観地区で空き店舗が出たため、同店と共同でカフェを運営することを決めたのです。 「それまで美観地区で大手まんぢゅうを買える場所がありませんでした。ソフトクリームもコーヒーもあるので、物販も飲食もできると考えました」 一番の狙いは、美観地区に大手まんぢゅうの看板を出すことでした。「カフェがあれば、地元の人が美観地区を案内する際、大手まんぢゅうのことを伝えてくれます。岡山を扱う旅行雑誌は倉敷市がメインになることが多く、飲食店として紹介されることでメディア露出も倍になりました」 開店直後にコロナ禍が発生しましたが、結果的に給付金や補助金を活用し、安価に少しずつ設備を整えられたといいます。今ではカフェも人気の観光スポットになり、「私たちのマーケットが一気に広がりました」。 ソフトクリームもカフェも、あくまでできたての大手まんぢゅうにつなげるための戦略でした。社内からの表だった反対はなく、「ソフトクリームは以前から話がありましたし、美観地区での販売も長年の課題でした。私一人が騒いだのではなく、あくまで調整役を担った形です」。 大岸さんは「とっぴな事業はできないし、組織も製造と販売に無駄なく特化しています。それ以外の仕事ができるのは、余っている私しかいませんでした」と冗談めかしますが、家業の将来像を長い目で見られる後継ぎだからこその取り組みと言えます。