大国インドが中国のような独裁にならなかった訳 絶対的な強権支配が成立しにくかった土壌
■カースト最下層のダリト出身の大統領も誕生 ダリトに属する人々の数は2億人とも言われます。少なくとも千数百年以上にわたり社会の最下層で不浄とされた職業に就き、差別されてきました。 その解放運動は主として20世紀から。1920年代から弁護士としてダリト解放運動に取り組んできたアーンベードカルは、初代首相ネルーの下で法務大臣に就任し、インド憲法の起草に取り組んだ人物。彼は、インド憲法17条にダリト差別禁止条項を設けることに成功します。
また、ダリトを指定カーストとして、教育、公的雇用、議会議席の3分野において優先枠を設けました。米国のアファーマティブアクションのインド版、といったところです。このような議会での優先枠の存在が、ダリトの政党が議会で勢力を持つ一つの理由になっています。 このような社会的改革の結果、1997年には、ついにダリト出身の大統領も生まれました。ケラーラ州出身のナラヤナン氏は、苦学の末にロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。外務省に入省して駐米大使まで務め、下院議員を経て大統領になりました。
インドの大統領は、両院の議員及び州議会議員の間接選挙によって選ばれます。政治的な実権は首相に委ねられていますが、大統領が国家元首です。 20世紀の終わりくらいから、首相は北部出身ヒンドゥー教徒が就任することが多いのに対して、大統領には、南部出身者、ムスリム、ダリト、先住民族出身者などマイノリティ出身者が就任しています。このあたりに、多様性の国インドの絶妙なバランス感覚があります。 激しい社会的差別と刻苦勉励による社会的な上昇の可能性、それを許す政治的仕組み。インド社会を見るうえで重要な視点です。
こうした政党の動きから、インドの人権意識がどう変わっているかも、見て取ることができます。 モディ首相もカーストとしては下のほうの出自ですが、インドの首相としてグローバルサウスを率いて10年になります。インドは世界最大の人口大国となり、ひょっとしたらモディ首相の在任中に、世界第3位の経済大国になるかもしれません。 「ムスリムを差別している。ヒンドゥー至上主義だ」と非難されながらも、経済発展を実現させていますし、テクノロジーの発展にも尽力。たとえば銀行口座が持てなかった貧困層でも、スマホの生体認証で商売ができるようにしたことは、新たなビジネスを生んだと評価されています。