池上彰「AI時代に必要な真実を見抜く“読解力”」誤った情報に惑わされないために
AI時代だからこそ必要な“読解力”
――AIによるコンテンツも登場しているいまの時代、さまざまな情報を浴び続けるユーザーにとっては、どんな注意が必要でしょうか。 池上彰: どれだけ常識を持っているかということはありますよね。例えば政治家のフェイク動画で、なにかを言ってるのを見て、「この人の日頃の言動でこんなことはないだろう」ってこれを判断できる。それぐらいの常識は持っておいてほしいなっていう風に思います。 「あ、ここは煽ってるな」っていうことが分かるような、まさにその読解力が問われてくるのかなって思います。伝統的な、経験や訓練を積んだジャーナリストが書く原稿って、見事な文章やハッとするようなものはあるんだけど、人の心をうんと煽るような、「バズらせよう」ということは絶対しないはずなんですよね。だから、「あ、ここバズらせようとしてるな」「過激なことあえて言ってるな」っていうコンテンツを目にしたら「ちょっと待てよ」と。 「これはほんとなんだろうか」、あるいは「意図的に金儲けのためにやっているのかな」っていうことを読み解く、判断するという、そういう新たないまの時代だからこその読解力というのが、問われるようになったのかなと思いますね。
AIに「誰かを傷つけない会話法」を学ぶこともできる
――ChatGPTのように、AIが世の中に浸透していく中で、印象に残っていることはありますか。 池上彰: ある経済雑誌の編集後記に、女性の編集者が書いていた文章が印象的でした。彼女は夫と共働きで、お子さんが入院してしまったそうなんです。本当に心配で、でも気軽に相談できる相手もいなかったから、ChatGPTに「どうしたらいいでしょうか」って聞いてみたんだそうですね。そうしたら「それは心配ですね」って返ってきたらしいんですよ。彼女の文章は「うちの旦那はこんなに優しい言葉をかけてくれない」というオチでしたね。 ChatGPTは絶対ヘイトにしないんですよ。以前知り合いの編集者が、「阪神タイガースファンはどのように見られていますか」ってChatGPTに質問したそうなんです。そうしたら、「私はステレオタイプな答え方はいたしません。ただし、熱心な野球ファンであることは知られています」って答えが返ってきたそうです。それって、阪神タイガースファンはこうだよね、という答えを相手は期待しているんだろうと分かったうえで、配慮した答えを出してきたのかなって思いましたけどね。 そういう風に、誰かを傷つけない会話法をAIから学ぶこともできるんです。こういったAI活用のいろいろな道を探っていきたいですね。 ――池上さんは今後AIをどのように活用していけば良いと考えていますか。 池上彰: ChatGPTはある時点までの学習データを元に回答を生成しているので、直近の出来事までは調べられません。そういう限界があることを知った上で使うべきですね。 そして、AIは過去にあった出来事を調べるには非常に有効なツールですが、その情報を人間がどう活かしていくかがもっとも重要だと思います。過去のことを調べる能力は、人間よりもAIのほうがはるかに高い。でも、AIは未来のことは語れないわけですよね。それは結局、人間がやるしかないんだろうなと思います。 AIやChatGPTのことはよく分からないと思っている人でも、まず話しかけてみる。答えが返ってきたらそのまま信じるのではなくて、その答えについてさらに質問を重ねる、ということをやってみるんです。何か1つ聞いて答えが出てきたら、この部分の典拠(てんきょ) は何ですか、と問いただす。このやりとりを続けていくと、そのうち「すみません、分かりません」とか「間違えました」ってChatGPTが謝るんですよ。出された答えを鵜呑みにするんじゃなくて、この過程を経ることが大事なのかなと。 やりとりを続けているうちに、本当に人間と会話をしているような気分にもなってきますが、これがまた危険なんです。相手がAIなのか人間なのか、そこを見抜いていく力も養わないといけない。そのためにも、まずはちょっと触れてみるのがいいと思います。 ----- 池上彰 1950年、長野県生まれ。ジャーナリスト。慶應義塾大学卒業後、1973年、NHKに入局。1989~1994年まで「首都圏ニュース」キャスター、1994~2005年まで「週刊こどもニュース」キャスターを務める。2005年にフリージャーナリストとして活動開始。東京工業大学、名城大学など複数の大学で教鞭を執るかたわら、執筆活動やテレビ出演など多方面で活躍する。 文:中村英里 (この動画記事は、TBSラジオ「荻上チキ・Session」とYahoo! JAPANが共同で制作しました)