【行正り香さんにきく〝50代。これからの住まい〟に思うこと〟③】心地よい住まいへの鍵、それは絵を飾ること。一枚の絵で暮らしが変わり、暮らしが変わると人生が変わる
50代になると、老後(人生の後半戦)を心地よく過ごしたいと願う人は多いのでは。特に住まいをどうするか考え始めた人に向け、料理家であり、インテリアコーディネーターや生活空間プロデューサーとしても活躍する行正り香さんに、心地よい住まいのつくり方を教わる連載。今回は絵が空間にもたらす劇的な変化についてだ。
「こんにちは、行正り香です。 前回は、照明を替えただけでリフォームしたくらいの大きな変化をもたらすことがあるとお話ししました。照明以外にも大きな変化を生むものはあります。それは絵。絵画です。 実はたった一枚の絵を部屋に飾るだけでも、住まいが、もっと言えば人生までもが大きく変わることすらあるんですよ。 今回は、そのお話をしていきたいと思います」
◆一枚の絵を買ったことで、人生が大きく変わったあるお宅のこと
「皆さんはおうちの壁に、何か飾っていますか? リフォームや模様替えで家を整えたものの、壁には何も掛けていないという方が多くいらっしゃいます。 我が家は、壁という壁にはほとんど絵を飾っています。私が絵を飾ることのすばらしい効果を知ったのは、洋画家の野崎義成さん(※)の絵がきっかけです」 ※1970年埼玉県大宮市生まれ。1989年日本デザイン専門学校中退。路上や公園での発表を経て、画廊での個展やグループ展を重ねる。独特のやわらかな味わいのある野崎タッチによる美しい抽象画に定評がある。
「彼の絵はセザンヌのような優しいトーンの色使いで、絵に素敵な空気感があるのです。 コロナ禍になる直前にこの絵を買い、飾ってみたら、まるで家の中に森があるような気持ちになったのです。 その後コロナ禍となり、家にずっと閉じこもって気持ちが暗くなりがちなときも、この絵を眺めることでずいぶん救われた気がします。 コロナ禍の前までは、日本人はどちらかというと外向きのこと、例えばきれいなお洋服を着て外食するといったことに楽しさを感じていた人が多いように思います。 でも、それがコロナ禍を機にずいぶん変わってきたと感じませんか? コロナ禍中は、服をいっぱい買ってもそれを着て行くところがなく、レストランなども早く閉まってしまったので『だったら家で過ごそう』という人が増えたのではないでしょうか。 いつも外に向いていた目がこのとき初めて内側に向き、自分はどんなことが好きなのか、どう暮らしたいのか、ということを考え始めた人が多かったのではと思います。 とはいえ、住まいという空間を変えることはすごく忍耐がいる作業です。いきなり部屋全体に手をつけるのが大変なら、まずは『絵を飾ってみる』というのもひとつの手かもしれません。なぜなら、絵をひとつ飾っただけで、住まいの印象がずいぶん変わるからです」