真面目な親が陥る“闇バイト”の温床になる子育て 親は子供にとって「指示役」になってはいないか?
世間を騒がせている闇バイトは凶暴化が進んでいます。法務省の心理職として刑務所や少年鑑別所で犯罪者や非行少年の心理分析を多数行ってきた犯罪心理学者の出口保行氏は、その中には闇バイトに巻き込まれた者もいたと言います。本記事で紹介する「トモヤ」もその1人です。 彼はなぜ闇バイトに応募したのか、出口氏の著書『犯罪心理学者は見た危ない子育て』から抜粋・再構成のうえ、子育てと闇バイトの関係を見ていきます。 ■ビギナーズラックで大勝ちし、パチンコにハマった
トモヤは東京の大学に進学し、一人暮らしをするようになって自由を謳歌していた。 実は、大学を休学してアルバイト中心の生活を送っていた。仕送りはもらっているが、全然足りないのだ。パチンコに費やすようになったからである。 きっかけは、ゲームセンターに置かれていたパチンコが面白かったことだ。ゲームセンターに行くことなんてこれまで許されなかった。一人暮らしをするようになったら早速行ってみようと思っていた。そして、本物のパチンコ店でやってみたいという衝動が抑えられず、店で打ってみた。
すると、ビギナーズラックで大勝ちしてしまった。たった1000円が5万円になったのである。ゲームとして楽しいだけでなく、お金まで稼げる! 夢のような遊びだと感じて、パチンコにハマったというわけだ。 儲かった5万円はあっというまに消え、仕送りもアルバイト代もつぎ込んで、「取り返さなくては」とパチンコ店に行く。悪循環に陥っていた。両親は、トモヤのそんな生活を想像もしていない。大学で勉強を頑張っていると信じている。
父親のかねての願いは、「いい大学を卒業して大企業に就職し、世界を股にかけて活躍してほしい」というものだ。父親自身の果たせなかった夢である。 彼は本当は大学に行きたいという強い希望があったが、家庭の金銭的事情により叶わず、高校を卒業して地方公務員となった。今のポジションは係長。大卒の職員に立場的に抜かれることが多く、「大学さえ出ていれば」と忸怩たる思いに駆られるのだった。 長男のトモヤには、自分のような思いをしてほしくない。とにかく、いい大学に行って、いい会社に入る。それがトモヤのためだと考えていた。