愛犬10年物語(2)番犬・同志・学園マスコット 世代超え劇団支えた犬たち
「井荻時代には秋田犬が2匹いましてね。こっちでも柴犬を飼おうということになりました。当時は3か月ほど本部を空けるような旅公演が多かったですから、犬たちに留守を守ってもらうというわけです」と、最古参劇団員の俳優・舞台監督、込山虔二郎(こみやま・けんじろう)さんが解説してくれた。多い時には15、6頭の柴犬が放し飼いで駆け回っていたという。今、キャンパスにいるのは、その子孫に当たる純血の柴で、年長順に茶々(メス・15歳半)、絵里奈(メス・12歳)、千代丸(オス・11歳)の3頭だ。
共に生きる「同志」
実際、昭和のころの劇団の犬たちは番犬の役割をよく果たしてくれた。「劇団員やよく来る出入りの業者さんなどには吠えないんですけど、知らない人が来ると吠えて知らせてくれましたね。私たちは鍵をかけたこともなかったんですよ」と話すのは、現在「犬の世話係」を任じられているベテラン女優の江崎はんなさんだ。キャンパスには、今も劇団員たちが暮らす高層マンションと60~70年代の団地風の高層住宅が点在する。そのほかに通し稽古と学校行事に使う本格的なホール、以前は資材置き場だったシェイクスピア時代の英国建築風の体育館などが建つ。住居棟は劇団の人数が大幅に減った今は、空き家も多く、かつては敷地内を自由に闊歩していた犬たちも、今は犬小屋の前でつながれている(ただし、千代丸は夜は子犬の頃から共に暮らしている主演女優の小津和知穂さんの自室で寝る)。
この地に移転した一年後に入団した江崎さんが、当時を振り返る。「今も残っている農家が前に一軒あるだけで、何もない所でした。私は根っからの田舎者なので当時からいい所だなあ、と思っていたのですが、きらびやかな東京の劇団をイメージして入ってきた人は『こんな寂しい所に劇団があるのかしら?』と不安がっていましたよ」。それが、高度経済成長期に急ピッチで宅地開発が進むと、あっという間に団地に囲まれてしまった。やがて、周辺住民から犬を放し飼いしていることへのクレームが入るようになり、1980年ごろにはつなぐようになった。