[特集/プレミア戦線異常アリ 03]最多得点チェルシー、セットプレイ王アーセナル ロンドンの両雄がリヴァプールを追い落とす
攻撃力はリーグ最強 課題は失点の多さか
チームの強みはリーグ最多の得点を叩き出す攻撃力だ。ボール保持時は右サイドバックのグスト、あるいは最近右SBで使われるカイセドが中盤に入り、いわゆる「偽サイドバック」の形をとることが多い。狭いエリアに多くの選手が入っており、オーバーロードを引き起こす。必然的に選手間の距離が近くなり、ボールを奪われてもすぐさま奪い返してショートカウンターに持ち込むこともできる。縦への意識は徹底されており、切り替えの場面でボールを持つと何人もの選手がボールホルダーを追い越していく。 中核を担うのはパルマー。15試合ですでに11得点6アシストと昨季に続き絶好調だ。サイドバックがMF化するのでパルマーはやや高い位置をとり、相手ボランチの脇、ピッチのやや右寄りあたりでボールを受けて攻撃の起点となることが多いようだ。近い距離に選手が多いのでパス交換で打開することもできるし、突破力のあるウイングに預けてチーム全体を押し上げることもできる。パルマーはこうした展開のなかでいつの間にか良い位置に顔を出し、ゴールを奪っていく。加えて、PKの巧さも特筆ものである。 弱点があるとすれば守備だ。ディフェンスラインにも才能のある選手が揃っているが、かつてのジョン・テリーやチアゴ・シウバのようなリーダー格がいないことは指摘されている。また、GKサンチェスも足元の技術が高いといわれるが、シティのエデルソンやアーセナルのダビド・ラジャと比べると明らかに見劣りする。今のビルドアップ志向のプレイスタイルからすれば、もう少し繋ぎの安定したGKが欲しいところかもしれない。チェルシーは攻撃力が高い反面クリーンシートが少なく、リーグ戦ではボーンマス戦(1-0)、ウェストハム戦(3-0)、アストン・ヴィラ戦(3-0)の3つのみ。このあたりの改善をシーズン後半にできるかどうかが、リヴァプールに追いつくための鍵かもしれない。
驚異のセットプレイがアーセナル最強の武器となる
アーセナルは昨季、最終的に優勝したシティに勝ち点「2」差まで迫り、今季こそ優勝だと期待されていた。しかし今季序盤は怪我人や退場者の多さが足を引っ張り、思うように勝ち点を伸ばすことができていない。しかしそれでも15節終了時点で3位につけており、まだリーグ制覇を諦めるのは早い。 特に、キャプテンでもあるMFマルティン・ウーデゴーが代表戦で足首を負傷し、離脱したことが大きく響いた。第8節ボーンマス戦に敗れて以降はリーグ戦4戦勝ちなしと大きく足踏みしてしまっている。しかしそのウーデゴーも第11節チェルシー戦で本格的に復帰し、以降チームは再び上昇気流に乗ってきた。 レアンドロ・トロサールもウーデゴーがいない間に懸命に代役を務めていたが、やはり彼がいるといないとではチームは別物だ。特に右ウイングのブカヨ・サカとの連携は指揮官ミケル・アルテタが「バルセロナのレジェンドたちを思わせる」と絶賛したほどの息の合ったプレイを見せており、第12節ノッティンガム・フォレスト戦(3-0)、第13節ウェストハム戦(5-2)、その間に行われたCLスポルティングCP戦(5-1)では、チームが完全に息を吹き返したかのような圧倒的な強さを見せつけた。崩しの中心となったのはやはりウーデゴーとサカのホットラインだ。 そしてアーセナルにはもうひとつ、他チームにはない強力無比な武器がある。セットプレイである。 アーセナルはニコラ・ジョバーというセットプレイ専任コーチを置いているが、ジョバーの考案するプレイはユニークかつ効果的だ。昨季はベン・ホワイトにGKの動きをブロックさせるという手段を用いていたが、これは今季咎められる可能性が高くなり、アーセナルはやり方を変更した。コーナーキックになると、アーセナルはゴール正面に選手を置かず、ファーサイドに選手を集中させる。キックと同時に5人ほどの選手がファーからなだれ込んでくるのだが、守備側は誰を狙ったキックなのか、そしてターゲットとなる選手がどんな動きでゴール前に入ってくるのか、まったく狙いが読めない。しかも今季のアーセナルは身長が高く空中戦の強い選手をズラリと揃えている。サカあるいはデクラン・ライスの高いキック精度あってのプレイだが、相手からすればどう防げばいいのか頭を悩ませる、まさに必殺の武器だ。 第14節マンチェスター・ユナイテッド戦でも、オープンプレイで攻めあぐねるなかセットプレイ2発で勝負を決めてしまった。前述のウーデゴーが離脱していた時期にもセットプレイから勝ち点を拾った試合がいくつかある。第15節を終えた時点で、昨季から数えてコーナーキックからのゴールは「23」を数え、これは他のどのクラブよりも多いという。かつてのストーク・シティを引き合いに出されるほど現在のアーセナルのセットプレイは脅威となっていて、これは不利な流れの試合でも一発でひっくり返す可能性を常に秘めていることを示している。