ヤマザキマリ『プリニウス』が手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。「なぜ日本人のあなたが古代ローマ世界を?」との質問に私がいつも答えているのは…
◆古代ローマと日本 たとえば、古今東西、入浴文化が日常の習慣として浸透していたのは、世界でも古代ローマと日本のみ。その比較文化的発想から生まれたのが『テルマエ~』という漫画なのである。 入浴文化発展の基軸となった温泉は、火山が多い地域に湧くものであり、火山があるところには地震も発生するし、津波も起こる。古代ローマは日本と同様、常に自然災害と向き合ってきた国家だったわけだが、そこに焦点を向けたのが『プリニウス』という作品なのである。 天災だけではなく、森羅万象がさまざまな神や怪物の存在と紐づけられるところも、八百万の神が宿る日本とよく似ている。合理主義が根づく欧州の人よりも、多様な宗教を受け入れ、目に見えない自然の力に畏怖の念を抱く日本人の気質は、私の中にも確実に根づいている。 プリニウスという博物学者の旺盛な知識欲は、まさにそうした特定の信仰に囚われない社会でこそ生まれたものであり、日本人の想像力であればその世界観は難なく感受できるだろう。 『プリニウス』はそんな想像力によってできあがった作品なのだった。 そういえば、かつてイタリアの新聞に『テルマエ・ロマエ』についての記事が掲載されたことがあった。その時もやはりなぜ日本人が古代ローマを描くのか、なぜ日本でローマが流行るのかについて言及されていたが、タイトルは「古代ローマ文明、漫画によって日本を席捲」というものだった。 (撮影=ヤマザキマリ)
ヤマザキマリ
【関連記事】
- ヤマザキマリ「なぜ外国人旅行客はTシャツ短パン姿なのか」と問われ、あるイタリア人教師を思い出す。観光客ばかりナンパする彼が言っていた「愚痴」とは
- ヤマザキマリ 心身のメンテナンスとして湯に浸かっていたのは、どうやら古代ローマ人と日本人だけ。16年を経て再び描く『続テルマエ・ロマエ』に込めた願いとは
- ヤマザキマリ 災害や事故を前にしても沈着冷静な様子が世界から賞賛される日本人。「危機的状況下こそ他人の指示なんて信じられない」と話すイタリア人夫の話を聞いて考えたこと
- ヤマザキマリ「感情を揺さぶられたくない」から恋愛を避けて映画はネタバレを求める若者たち。これからは笑いに愚痴に忙しい「中年以上の女性」が司る社会になるのかも
- ヤマザキマリ 母の葬儀を進める中イタリア人の夫が発した意外な一言とは。母がその場にいたら、息子と夫のしどろもどろな様子を前に呆れながら笑っていたにちがいない【2023編集部セレクション】