脳オルガノイドは「人」と見なせるか 若手の生命倫理学者と法学者が別々の観点から考察
科学者が日々、法やガイドラインを守りながら研究を進めていることに対して永石准教授は敬意を示しつつ、「現象としてのヒトの解明を目指す自然科学と、人間にとって『人』とは何かを解明する人文科学、その両者を制度に位置付ける社会科学の3つの知見を総合したい」と、法律の世界が大切にしてきた考え方を基に科学の枠にとらわれない今後の在り方を提言した。
新たな視点は「共同体の価値観に依存する」
これらの分析に対し、澤井准教授は「永石先生の『棄損してはならない価値が人にとって見いだせたときに、モノは単なるモノではなく大切なモノになる』という『錯覚』の考え方こそ、我々が論文で扱った重要な点」とした上で、「新たな視点は、ヒト脳オルガノイドが法的な『人』と見なされるかどうかは共同体の価値観に依存するという点である。ただ『錯覚』の妥当性を高めるためには、ヒト脳オルガノイド研究のみを問題にすべきではない。胚や胚モデル、中絶胚や胎児、動物などとの整合性を取った議論が大事になる」と話した。
科学技術の発展と法律・法律運用の衝突は、ファイル共有ソフトに絡む著作権法違反を問われた「Winny事件」で研究者が逮捕されたものの最終的に無罪となるなど、実際に起こっている。両者が良い折り合いをつけるためにも、立法府の人々が科学技術に対する見識を、科学者が法的な判断力を深めることが重要といえそうだ。 (滝山展代/サイエンスポータル編集部)