朝ドラ『虎に翼』兄・猪爪直道はどのように戦死した? モデルになった三淵嘉子さんの弟の最期とは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第9週「男は度胸、女は愛嬌?」がスタート。昭和20年(1945)、子供を連れて疎開していた寅子(演:伊藤沙莉)と花江(演:森田望智)の元に、寅子の兄であり花江の夫でもある猪爪直道(演:上川周作)が戦死したという知らせが届いた。実は、寅子のモデルである三淵嘉子さんの弟が戦争で命を落としている。 ■紙切れ1枚の悲しすぎる帰宅 東京大空襲では、東京が炎に包まれた。爆撃被災者は約310万人、死者は10万人以上、負傷者は15万人以上を数え、東京は焼け野原になった。 終戦間近の7月、寅子と花江の疎開先に寅子の父・猪爪直言(演:岡部たかし)が憔悴した様子で訪ねてくる。そして、直道の戦死が告げられ、花江の慟哭が響いた。帰ってきたのは、戦死を知らせる紙切れ1枚のみだった。 ■沖縄への増援派遣中に命を落とした将兵たち 寅子のモデルである三淵嘉子さんには兄ではなく、4人の弟がいた。出征し、戦地で命を落としたのは、長男である武藤一郎さんだった。 一郎さんは1916年生まれ。横浜高等商業学校を卒業した後、日立製作所に勤めていた。そして、妻・嘉根さんとの間に「康代」という名の女の子がいたという。一郎さんは愛する家族を残して出征し、昭和19年(1944)6月に乗船していた「富山丸」が米軍の魚雷で沈没して命を落とした。享年29歳(数え年)だった。 「富山丸」は日本郵船が運航していた貨物船である。当時、マリアナ沖海戦の敗北とサイパンでの劣勢などの戦況悪化を受けて、大本営(戦時中に設置された日本軍最高統帥機関)は南西諸島の防備強化の必要性に迫られていた。 そのため沖縄本島への増援が決定され、兵士はもちろん重火器、トラックなどの装備も輸送することになった。そして、昭和19年(1944)6月27日、富山丸は将兵4600人を乗せて他11隻とともに鹿児島湾を出港。甲板にはガソリンが入ったドラム缶約1500本が積み込まれていた。 富山丸を含めた船団は那覇に向かっていたが、アメリカの潜水艦「スタージョン」がそれを捕捉する。スタージョンから放たれた魚雷4発のうち3発が富山丸に命中し、大量に積んでいたガソリンが発火して大炎上した。こうして富山丸は船体が2つに折れ、徳之島(奄美群島のほぼ中心にある離島)の南東12キロ地点で轟沈した。 海上に流出したガソリンにも引火していたため、将兵らは逃げる場もなく、乗船していた将兵4600人のうち約3600~3800人が死亡するという大惨事に終わった。当時の他の船舶轟沈の報と同様、富山丸の轟沈も大本営によって秘匿された。 作中で直言が花江に渡した戦死公報には「南西諸島方面にて戦死」とだけしか記されていない。情報秘匿の観点から、遺族にはなぜ、どのようにして、具体的にどこでその尊い命を散らしたのか十分な情報が知らされないことが多かった。史実でも武藤家には遺骨が届くことはなく、骨壺には遺品を収めて弔われたという。 <参考> ■『自昭和十九年六月一日至昭和十九年六月三十日 第四海上護衛隊沖縄方面根拠地隊戦時日誌』(アジア歴史資料センター) ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)
歴史人編集部