台湾有数の港町でクライミングとともに街歩きや屋台めぐりを楽しむ|筆とまなざし#403
クライミングのあとに毎晩楽しむ夜市の屋台は優しくて控えめな味付け。
台湾、龍洞でクライミングをするとき、拠点をどこにするかは人によってさまざまである。前回は台北の安宿を拠点にし、毎日レンタカーで岩場まで通った。時間は1時間半程度。飲食店が豊富だし登山用品店めぐりも楽しく、滞在するにはとても快適なのだけれど、台北市内は車とバイクのカオス状態。レンタカーを運転して街を抜けるのがとても大変なのである。タクシーを1日貸し切る人もいるようだが、毎日2万円ほどかかり、人数が少ないとなかなか大変だ。 今回は空港でレンタカーを借り、台北と岩場の中間に位置する基隆(キールン)をベースにすることにした。基隆は台湾有数の港町で、世界クルーズの豪華客船も寄港する。岩場までは1時間弱ほどの距離で、台北ほど大きな街ではないから交通事情はさほど悪くない。運転もなんとかなるだろうと踏んだ。ちなみに基隆からタクシーを貸し切るという手もあるが、やはりそれなりの金額になってしまうしレンタカーなら時間に自由がきくだろう。 もうひとつの方法が、岩場近くの小さな港町にあるクライマーズハウスを拠点にすることだが、飲食店は数件でコンビニが一軒あるきりなので、クライミング以外の楽しみ、たとえばグルメ屋台が立ち並ぶ夜市などが楽しめない。 結果的に基隆をベースにしたのは正解で、比較的楽に岩場へ行くことができるし、街歩きや屋台めぐりも毎日楽しむことができた。 今回の旅のメンバーは3人。港近くのドミトリーの一室(4人部屋)を貸し切った。室内はとても清潔で快適そのもの。夜市は歩いて2分ほどで行け、屋台で夕ご飯を楽しむのが日課となった。夜市は毎日がお祭りのような賑わいだった。シーフードに餃子や焼売、その場で作ってくれる生春巻き。おいしかったのはビーフンを使った麺料理で、以前訪れたときも気に入って毎日食べていた。味付けは優しくて控えめ。人も優しいが味も優しいのが台湾である。そして、タピオカミルクティーと並んで人気の国民的スイーツ「豆花(トウファ)」もいただいた。豆花自体は豆乳を凝固剤で固めたゼリー状の食べ物で、正直いってあまり味がしない。これをベースにさまざまなものがトッピングでき、小豆や芋の甘露煮、タピオカなどといっしょにシロップに入れて食べる。注文すると、 「温かいのですか? 冷たいのですか? 」。 と聞かれた。なるほど、日本でいうぜんざいとあんみつのようなものなのだろう。 屋台での食事は、麺料理が一杯500円くらいで日本よりも安い。けれど、コンビニで買うおにぎりや飲み物はどちらかというと日本より割高で、10年ほど前にきたときと比べるとずいぶん違っていた。ちなみに、最終日に台北の登山用品店に立ち寄ったのだが、登山用品は日本とほとんど同じ。いまや世界中どこへ行っても日本円が安すぎる。すっかり世界経済から取り残されてしまった感が年々強くなるのだが、しかし、それでもときは流れていく。行けるとき、行きたいときに出かけよう。台湾から帰宅し、来年の予定に思いを馳せながら年末をすごしている。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
PEAKS編集部