最高裁の「判事」を経ずに「長官」になるきわめて異例の出世…裁判員制度導入がもたらした「刑事系裁判官」の逆襲
「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。 裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。 『絶望の裁判所』 連載第23回 『被告人を「奴ら」「あいつら」と語る…国民を脅かす“冤罪事件”につながりかねない「刑事系裁判官」の問題点』より続く
裁判員制度導入の裏の目的
裁判員制度導入の決定により、前回述べたようなあるべき方向に大きくブレーキがかけられる結果となった。 これによって、刑事系裁判官の地盤が再び強化されたのである。つまり、市民の司法参加という大きなプラスイメージを伴う制度が新たに設けられることによって刑事裁判が脚光を浴びるとともに、そのような仕事に従事するのだからということで、刑事系裁判官・裁判所書記官を増員し、その特化をも固定するのが可能になったということである。 ことに、キャリアシステムにおける昇進の側面においてそれが顕著となった。 そのことを裏付けるかのように、竹崎(※正式表記は立つ崎)氏は、14名の先輩最高裁判事を飛び越して東京高裁長官から直接最高裁長官になるという、きわめて異例の「出世」をした(このように最高裁判事を経ずに最高裁長官となる人事はきわめて異例であり、第3代長官の横田喜三郎以来48年ぶり、キャリアシステム出身の裁判官としては初めてである)。 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」「なぜ、日本の政治制度はこんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」「なぜ、日本の政治と制度は、こんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は、長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。