月経困難症 生理始めのひどい腹痛と腰痛 漢方薬や鍼治療も併用 痛み学入門講座
ペインクリニックは〝痛み〟全般をその適応としていることから「生理が始まる頃になるとおなかや腰の痛みがひどくなり、イライラしちゃって、仕事を休むことだってあるんですよ…」として受診される方も少なくない。 【表でみる】月経困難症の主な治療は2種類 女性の体には、成熟した卵胞がエストロゲンと呼ばれるホルモンを血液中に分泌して妊娠に備え、その後、卵子を排出して空になった卵胞がプロゲステロン(黄体ホルモン)を分泌し黄体期を迎える、という周期がある。 妊娠しなかった場合には、子宮の内膜が剝がれ落ちて出血をみる。これが月経である。月経に関連して下腹部や腰に「けいれんするような」痛み、腹部膨満感、食欲不振、吐き気、頭痛、脱力感、イライラなどさまざまな症状を引き起こすのが「月経困難症」である。 特別な異常がみられない機能性(原発性)と、子宮筋腫、若年者で増加している子宮内膜症、子宮後屈症などによる器質性(続発性)に分けられることから、まずはこれらの鑑別が必要となる。 機能性のものは初潮2~3年後から起こり、月経初日~2日目の出血が多い期間に痛みが強く、周期的でけいれんするような痛みを特徴とする。一方で、器質性のものは35歳くらいから始まり、月経の5日前くらいから月経後まで、持続的に鈍い痛みが続くことが多い。器質性のものが疑われる場合には、婦人科での検査、治療を優先すべきことは言うまでもない。 機能性のものでは、子宮内膜が剝れるときに作りだされるプロスタグランジンと呼ばれる物質が子宮を収縮させることが痛みの原因と考えられている。また、血液を固まり難くする作用を持つサフランが効くことから、微小な血栓(血管内での血液の固まり)も原因の一つと考えられている。加えてストレス、月経に対する嫌悪感といった心理的要素、ホルモンバランスの乱れ、自律神経機能の変調も関与するから厄介だ。 機能性のものに対する治療では、プロスタグランジンの合成阻害作用をもつ非ステロイド性抗炎症薬、抗不安薬などが用いられている。ペインクリニックでは星状神経節ブロック(首の交感神経が集まっている部位に注射をして、交感神経の興奮を沈静化する)を行うことがある。これによって腹部の血流が増加することが実証されているのだ。 さらに私は、漢方薬(いわゆる「血の道症」に有効とされる駆瘀血剤(くおけつざい)の当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遥(かみしょうよう)散(さん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)など)の投与、へそから指4本分下にある「関元(かんげん)」や、くるぶしから指4本分上にある「三陰交(さんいんこう)」などの経穴(ツボ)への鍼治療も併用している。
■森本昌宏(もりもと・まさひろ) 祐斎堂森本クリニック顧問。平成元年、大阪医科大学大学院終了。同大講師などを経て、22年、近畿大学医学部麻酔科教授、31年、大阪なんばクリニック院長、令和6年4月から現職。日本ペインクリニック学会名誉会員。