犬の「多頭飼育崩壊」で悪臭・騒音地獄の借家 契約解除まで8年超、物件オーナーの苦悩
■契約で禁止事項決定を
「周囲に迷惑をかけてしまい、寝ても覚めても気になって、どうしたら解決できるのかと思い続けた毎日だった。犬たちも本当にかわいそうだ」と振り返り、「一度契約すると、よほどの理由がない限り、家主から出ていってくれと言うのは難しい」と話した。
明海大不動産学部の中城康彦学部長(不動産経営計画)は、多頭飼育崩壊に限らず、オーナーと契約者の間でトラブルにならないためには、契約の際に賃貸不動産の用法(使用目的)を定めておくことが最も重要だと指摘する。
「危惧されることも含めて禁止事項を決めておけば、契約解除要件となる」とした上で「賃貸借契約の場合には売買契約と違い、契約期間中、オーナーには修繕義務などの契約当事者として果たさなければならない務めがある一方で、賃貸管理として相手の契約者が契約を守っているか、定期的に見に行って確認する必要があるだろう」と話した。
■法規制強化、経済困窮の飼い主への対応課題
環境省は令和3年に作成したガイドラインで多頭飼育問題について、多数の動物を適切に飼育管理できず、飼い主の生活状況の悪化▽動物の状態の悪化▽周辺の生活環境の悪化―のいずれかや、もしくは複数が生じている状況だと定義した。近年は動物愛護法の改正で動物虐待に関する厳罰化の動きが進むが、飼い主の中には経済的困窮や障害、疾患を抱える人も多く、いかに支援につなげるかが課題となっている。
環境省が都道府県と政令市、中核市の計125自治体にアンケートをした結果、多頭飼育に関して平成30年度に年間約2150件の苦情が寄せられたことが判明。平成27年から令和元年の事例を分析したところ、飼い主が経済的に困窮している事例は過半数を占め、生活保護を受給していた飼い主も約2割に上った。
同省はアンケート結果から、飼い主が生活に困窮し、引き取りや不妊去勢の手数料を支払えない▽動物の所有権を手放さない▽多頭飼育に関する情報が入ってこない▽飼い主とコミュニケーションができない―といった要因や、支援のための人材の不足などが複合的に絡み合い、解決を困難にしていると分析した。