犬の「多頭飼育崩壊」で悪臭・騒音地獄の借家 契約解除まで8年超、物件オーナーの苦悩
悪臭や騒音、ごみや害虫の発生…。ペットが増えすぎて飼育が不可能となる「多頭飼育崩壊」は、飼い主や飼育されている動物だけでなく、周辺住民の生活環境にも大きな影響を及ぼす。飼い主が心や体に病気を抱えていたり、生活が困窮していたりするケースが多く、さまざまな社会問題に波及している。多頭飼育崩壊の「現場」となった物件を巡って訴訟にまで発展したケースで、物件オーナーの苦悩を聞いた。 【写真】犬の糞尿などのにおいがしみついた床を削る作業も つんとした臭いが鼻を突く。建物に染みついた犬の糞(ふん)尿などが強い異臭を放っていた。 大阪府寝屋川市の住宅街にある2階建ての建物。この建物は犬の繁殖施設として使用されていた。施設を巡っては、ブリーダーの女が病気やけがで衰弱した小型犬を放置したとして、動物愛護法違反(虐待)容疑で逮捕。女は大阪府門真市でも小型犬の繁殖施設を運営し、合わせて約420匹を数人で飼育していたが、不衛生で劣悪な環境だったという。府動物愛護管理センターは40回以上立ち入り調査し、適正に飼育するよう指導していた。 女の逮捕後、空き家となった建物の原状回復作業を担ったのは、特殊清掃会社「関西クリーンサービス」(大阪市)。この日は、細菌やウイルスを防ぐための防護服を着たスタッフ5人が、においがこびりついた床のコンクリートを丁寧に削り、消毒液も散布した。 空き家になっても、異臭は漂っている。同社の亀沢範行社長(44)は「においのついた床を削り、高濃度オゾンで除菌するなど、作業には時間がかかるだろう」と険しい表情を浮かべた。 ■周囲から苦情も契約解除まで8年 この物件のオーナーの男性(80)によると、女が仲介業者を通して賃貸契約をしたのは平成22年9月。契約の際には、この物件で古物商を営むと説明していたという。しかしその4~5年後、周囲から犬の鳴き声やにおいについて苦情が来るようになった。 女に何度も対応を求めたが状況は改善されなかった。男性は30年、調停を申し立てたが合意には至らず提訴。令和4年6月にようやく大阪高裁で和解が成立し、契約を解除したのは事件化された後の昨年9月だった。苦情が入り始めてからすでに8年以上がたっていた。 裁判決着を受け、男性は関西クリーンサービスに特殊清掃を依頼。今年6月に着工し、消毒やコーティングなど作業期間は約2カ月半にわたったという。男性は「ブリーダーをしているという話は聞いておらず、こんなことになるとは夢にも思っていなかった」と衝撃を語る。苦情が出ていることを女に直接何度も伝えたが、返事はするものの改善がみられず困り果てていたという。