【高級寿司店に銀行窓口まで出張!】高級老人ホーム・サクラビア成城に潜入で痛感した「格差社会」
話題の一冊である『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を一部抜粋、再編集してお届けする。 【写真】入居一時金4億円超の部屋も…超高級老人ホームへ潜入! 3階には体育館並みの広さを持つホールもある。天井には当然のごとくシャンデリアが付いていた。居室では音の問題から楽器の演奏が禁じられているため、このホールにあるグランドピアノを弾いたり、楽器を持ち込んで演奏を楽しんだりする者もいるそうだ。施設内を案内してくれた石塚幸一氏(仮名)が語る。(以下、ことわりがない場合「」内の発言は石塚氏) 「現在ここに置いているグランドピアノは世界三大ピアノのうち、スタインウェイとベヒシュタインの2台です」 ちなみにスタインウェイやベヒシュタインは、モデルによっては2千万円から4千万円するという。ホールには舞台もあり、ピアニストやバイオリニストを招待してのコンサートやオーケストラの演奏イベントが開かれることもある。 麻雀室の前を通りかかると、居住者の男女が卓を囲んでいる光景を目にした。 「全自動の機械を2卓置いています。健康麻雀教室もやっており、初めての方には先生がついて、学びながら楽しめるようになっています。外部のご友人を招いて麻雀を楽しむこともできます」 麻雀は意外にも女性の利用者が多いという。密かに高レートの賭け麻雀が行われていないか気になって、中の様子を少しだけ覗かせてもらおうとしたが、すぐに別の部屋へと案内された。囲碁と将棋とチェスの部屋もあるが、サクラビア成城では麻雀が圧倒的に人気なのだという。 「麻雀室向かいの中庭越しには茶室があったのですが、近年使われることが少なくなり、皆さんのご要望でプライベートなトレーニングルームに改修しました。他にリハビリルームもあり、提携している医療機関から理学療法士が派遣されてきています」 陶芸工作室では、専用の窯を備えている。土を練るところから陶器を製作できるのだ。陶芸工作室の壁沿いには製作途中の作品が展示され、まるで学校の美術室のようである。取材後、作品に添えられたネームプレートの一つを調べてみると、関東近郊で医療法人を経営している医師のようだった。 レストランには30種類以上のグランドメニューに加え、日替わりメニューまで用意されている。毎週木曜日には、世田谷の梅丘に総本店がある美登利(みどり)寿司の職人が出張して来て、寿司を握るという。 「この寿司屋は行列のできる店としても有名ですが、ここでは並ばずにお寿司を食べることができます」 窓の外には日本庭園が見える。庭園の池には錦鯉が泳ぎ、秋になると紅葉が真っ赤に染まる。冬には一面、綺麗な雪景色になることもあるそうだ。錦鯉は昔から縁起物であり、権力や富の象徴だった。かつて田中角栄元首相も愛好していたという。そんな錦鯉が水面からわずかに跳ね上がったとき、優雅に演出された施設で暮らす居住者の姿と重なって見えた。 サクラビア成城では、野外でのイベントも頻繁に催される。 「例えばこちらでバスをご用意して、皆さんで近隣の遊園地へイルミネーションを見に行ったり、砧(きぬた)公園にお散歩ツアーに行ったりもします。以前にはディズニーランドや横浜中華街に行ったこともあります」 どのコースも庶民的で、まるで高校生の遠足のように思えた。 1階正面を入るとロビーだ。右手にはフロントがあり、壁には、19世紀に活躍したフランスの画家、カミーユ・コローの風景画が飾られていた。フロントには常時スタッフがいるため24時間出入りも自由だ。 フロントの横には小さな机があり、驚くべきことに、週2日提携先の銀行が出張して来るという。銀行窓口での取引をここで行えるが、預金の引き出しについては後日の対応になるそうだ。生活面から健康、娯楽に至るまで十分な環境が整っていることは、石塚氏の案内だけでもよくわかった。 ◆財界の大物がこぞって入居 では、これほど贅を尽くした施設には、一体どんな人物が入居しているのだろうか。居住者の中には、日本経済新聞の名物コラム「私の履歴書」に登場した有名財界人もいるそうだ。 具体的に誰が入居しているかを聞いてみたところ、当然ながら、秘密だといって回答を拒否された。そこで、過去の新聞記事で訃報欄を調べてみたところ、故人の住所がサクラビア成城となっている者を複数人見つけることができた。 例えば’80年代には旧興銀系化学メーカーの元社長、’90年代に入ると元セコム取締役、京都府立医大名誉教授、日本歌人クラブ元会長。現在の運営会社になってからも、元小田急電鉄取締役、元東京工業大学学長、大手ゼネコンの元副社長、声楽家らの訃報が伝えられ、いずれもサクラビア成城が故人の住所として新聞に載っていた。まさに人生の成功者が住む丘の上の豪華客船といったところだろう。 サクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)が語る。 「オーナー経営者が多いとお話ししましたが、会社を経営されている方の中には、『まだまだ自分の目の黒いうちは』ということで、ここから毎日出勤される方もいらっしゃいます。ここに住まわれている皆さんは老人ホームに入っているという感覚はないですね。最近、外資系の高級ホテルがサービス付きのアパートメントを運営されていますが、それと同じ感覚だと思います。人生の最期まで面倒を見てくれる高級アパートメントだという感覚です」 老人ホームに入っていても毎日出勤する社長を社員たちはどう見ているのか、思わず余計なことを想像したが、淡々と話す松平氏は、さらにこう続けた。 「ご婦人の方々は入居後も引き続き日本橋三越など老舗百貨店のカルチャーサロンへ通われたり、有名ホテルのフィットネスに通われたりと、これまでの暮らしと変わらない生活を送られています。夏場になると軽井沢、蓼科(たてしな)などの別荘に出かけられる方もいらっしゃいます。ここでは留守を心配することなくお出かけできます。帰ってこられるまで、お部屋の植木鉢の水やりなどのお世話もいたします」 至れり尽くせりではあるが、入居前の自宅では誰が水やりをしていたのだろうかとも思った。 取材・文:甚野博則
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