「いま必要とされるスキル」「即戦力になる人材」は従来の社内教育では作れない 大前研一氏が提言する「第4の波」時代の人事戦略
ChatGPTなどによりAI(人工知能)の性能が飛躍的に向上する中、経営コンサルタントの大前研一氏は、「人材の育成・採用にもAIを用いた戦略が必要」と断言する。AI・スマホ革命による「第4の波」時代ではどのような人材戦略が求められるのか。最新刊『新版 第4の波 AI・スマホ革命の本質』が話題の大前氏が解説する。 【写真】ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める大前研一氏
* * * 企業の採用面接も進化し、AIによる1次面接を活用する会社が増えている。 たとえば、タレントアンドアセスメントの「SHaiN」という対話型AI面接サービスは、オンラインで24時間365日、いつでもどこでもAIがすべての人に同じ基準で公平公正な面接を実施するというシステムで、すでに600社以上が導入しているという。 人事部などの社員が面接する場合、受験者1人が面接を受けられる会社数、1人の面接担当者が対応できる受験者数に限界があるが、AI面接なら受験者1人が何百社も面接を受けること、1社が何百人も面接することができる。さらに、人間は個々の評価基準が異なるが、AI面接はそのバイアスが平準化される上、面接記録(評価レポート)も全部残る。 私自身、同社の山崎俊明代表取締役と話す機会があったので、採用時だけでなく、入社から5年後10年後の成績もトラッキング(追跡・収集)し、伸びた人と伸びなかった人のプロフィールを蓄積・分析してデータベース化するようアドバイスした。そうすれば、AI面接の精度を上げて採用すべき人材のタイプを絞り込むことができるからだ。 私は本連載で「いまや企業は自前の人材で固定費をかけてすべての業務をカバーするのではなく、空いた仕事や足りないスキルは、まるでジグソーパズルの空白部分を埋めるピースのように、ネットで社外から募集する時代になっている」と書いたが、それがAI面接を活用することで当たり前になるのだ。
社内教育は20世紀の工業化社会の“残骸”でしかない
これはまさに「第4の波」時代の人事戦略である。 日本企業は新卒者を採用して社内で教育してきたが、「いま必要とされているスキル」「即戦力になる人材」は、従来の社内教育や社員研修ではつくれない。 なぜなら、社内には過去10年のやり方を教えられる社員はいても、今後10年必要となる武器を教えられる社員は(おそらく)いないからだ。社内教育は20世紀の工業化社会の“残骸”でしかないのである。 さらに言えば、AIが人間の知能を上回る「シンギュラリティ」が、これから様々な分野・業種に広がっていくことは間違いない。となれば、多くの仕事で人間はAIに取って代わられ、会社の中は不要な社員だらけになってくる。今後は、そういう事態を前提にした人材育成・採用戦略が必要不可欠なのだ。 もし、私が大企業の人事部長だったら、人材を3分化する。まず、今いる社員を3分の1に減らし、残った人たちを丁寧に育てる。会社の伝統や理念、哲学、文化を守る人間は必要だからである。次は、他社の優れたスキルを持った副業人材を「時間買い」する。そして3つ目は、総務や経理だけでなく研究開発やマーケティングなどもアウトソーシングするか、AIに任せる。そういう時代が間もなくやってくるだろう。 ところが、日本の大半の学校と企業は、そんな近未来を全く見ていない。学校は、約10年に一度しか改訂されない文部科学省の学習指導要領に従った古いカリキュラムを墨守するばかりだ。企業の多くは、新卒者を一括採用して昔ながらの社内教育を続けている。 このままいくと日本人は「第4の波」に世界で最も乗り遅れ、日本は衰退の一途を辿るしかないだろう。 【プロフィール】 大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2024~2025』(プレジデント社)など著書多数。 ※週刊ポスト2024年12月6・13日号