メガサプライヤー時代(上) 自動車メーカーは部品を組み立てているだけ?
下請け工場から研究開発機関へ
しかし、2000年代に入ってからは、その構造が激変していく。サプライヤーは単に安く使える下請け部品屋と言う存在ではなくなった。ではどう変わったのか? 現在のサプライヤーは、メーカーが開発したクルマの図面をもらってただ部品を作るのではなく、システムそのものも開発している。例えばBMWが鳴り物入りで打ち出した「バルブトロニック」はコンチネンタル社が開発したアクチュエーターシステムがキモだ。つまり新型車の目玉技術の根幹がサプライヤー開発の技術という時代に入ったのだ。 その他にも、多くのメーカーのディーゼルエンジンに使われる「ピエゾインジェクター」はデルファイが、フィアットの油圧バルブ駆動機構「マルチエア」はシェフラーが、ディーゼルエンジンの「コモンレールシステム」はデンソーが開発した。もちろん全ての技術がメーカーと関係なくサプライヤー独自開発というわけではない。共同開発することもある。しかし、こうしたシステムがサプライヤーの商品であることから目を背けてはいられない。 それだけで驚いてはいけない。メガサプライヤーのシステム製品は、ハイブリッドシステム、プラグインハイブリッドシステム、回生ブレーキ、衝突安全ブレーキ、自動運転制御などの最先端システムや、トランスミッション、インジェクションや排気マネージメントなど基幹技術まで書き切れないほどあり、エンジン変速機などのパワートレイン、車両制御(VSA)、メーター(UI)、安全装備系などあらゆる部分に及んでいる。 自動車メーカーが新型車に、車両ダイナミクス制御や衝突軽減ブレーキを含む最新のブレーキシステムを装備したいとして、それを自社で開発する必要はもはやない。お金を持ってメガサプライヤーに行けばいい。彼らは手持ちのシステムを自動車メーカーの要求に合わせてカスタマイズし、部品を供給してくれる。 自動車メーカーとサプライヤー間のビジネス構造が根本的に変わったのだ。メーカーは自社設計のクルマの部品をサプライヤーに作らせるのではなく、サプライヤーが研究開発したシステムを採用して商品の核に据えるのである。むしろサプライヤーが「わが社の新製品の○○を採用すれば、御社のクルマがこんなにすごくなりますよ」と売り込みに行く。かつてサプライヤーの汎用部品を使うことは品質感の失墜とセットになっていたが、いまや逆である。華やかなサプライヤーのシステム商品を買うことでクルマの商品力が上がる時代になっているのだ。 例えば中国のあまり技術を持たないメーカーが、ボッシュからプラグインハイブリッドのシステムを買えば、突如プラグインハイブリッドモデルをカタログに乗せることができることになる。