なぜ初球にバスターのサイン?阪神の奇跡Vが遠のく首位攻防戦ドローに見えた矢野監督と高津監督の采配力の違い
5回である。糸原、大山の連打でつかんだ無死一、二塁のチャンスに小野寺の初球になんとバスターのサイン。バントの構えからヒッティングに切り替えた小野寺は、高橋のストレートに差し込まれ、ボールを打ち上げて最悪のライトフライに倒れたのである。 この場面について、矢野監督は、「どうしても点を取れなかったから、いろいろ考えはありますけど、しっかり点を取ろうという中でやったことなんで。それは自分自身、受け止めてやっていきます」とコメントした。だが、高代氏は「結果論ではなく、なぜ?の疑問府がつくベンチの迷いが見えた作戦だ」と厳しい見方をした。 「確実にバントで送る、あるいは、初球からバスターのような仕掛けをしたかったのであれば、それに対応できる能力のある打者を代打で送るべきだったのだろう。山本でも木浪でもよかったと思う。小野寺はファームでもバスターなどやったことがなかったのではないか。そもそもバスターを成功させる可能性の低いバッターなのだから、相手の裏をかくことにもならない。しかもヤクルトの内野陣はバントと決めつけて猛チャージをしてきたわけではない。そのまま小野寺を打席に立たせるのであれば、坂本、ガンケルと続く打線の並びを考え、最初からバントか、普通に打たせるかをシンプルに決めておくべきだったと思う。策を弄し過ぎるベンチの焦りが見えた。ガンケルの出来とブルペンの安定度を考えると1点を取れば勝てたゲーム。バントで良かったのだ」 高代氏は、このバスターの失敗が、9回の最後の攻撃が無得点に終わったことにつながる布石にもなっていたという。9回に先頭の中野が中前打で出塁すると、続く近本に、一転してバントをさせたシーンである。 「バスターの失敗を矢野監督は引きずっていたと思う。だから近本に手堅く送らせた。低調の打撃陣において唯一信頼のおける近本を3番に置いたのであれば、こういう場面でこそ、簡単に送らせずに何かを仕掛けても良かった場面。6回一死一塁で近本は併殺打に終わっているが、これは珍しいケースで、ヤクルトベンチはバントで助かったと思ったと思う。ベンチがひとつミスを犯すと、こういうチグハグな采配になりかねないのだ」 前年度最下位で、開幕前にはBクラス予想がほとんどだったチームをここまでに導いた高津監督と、巨人と対等の戦力をフロントに整えてもらいながら最後のV争いで後手を踏んだ矢野監督との采配力の差が、如実に表れた最後の首位攻防戦となった。