政府が節電要請で「室内温度を28℃に」潜む危うさ、熱中症のリスクは?
7月1日から節電要請の期間に入る。政府が7年ぶりの節電要請を行うと決めたことを報じたYahoo!ニュース内の記事のコメント欄には、ユーザーから3000件超のコメントが寄せられた。中には「28℃では熱中症になってしまうのでは」「冷房が28℃では暑すぎる」という声も。萩生田光一経済産業相が呼びかけた「室内温度を28℃に」をどう受け止めたら良いのか、医療ジャーナリストの市川衛氏に解説してもらった。
政府の節電要請の決定に対して「エアコンの利用控えで熱中症が起きる」など懸念が広がっています。キーワードとして出てくるのが「28℃」という数字。ただSNSの投稿などを見ると、数字の解釈に誤解が見られることもあるようです。 次の3つはそれぞれ、同じものでしょうか、別のものでしょうか? (1)室温28℃ (2)冷房の設定温度28℃ (3)暑さ指数(WBGT)28℃ 実は全て、別のものです。3つの中で、熱中症のリスクを考える際には(3)「暑さ指数」が大事になります。ややこしいことに、同じ℃という単位がついているのに、「室温」と「暑さ指数」は同じではありません。室温が28℃未満であっても、「暑さ指数」は「熱中症のリスクが高まる」とされるレベルになることがあるのです。 どういうことか、まず、(1)と(2)と(3)それぞれについて整理してみます。 (1)の室温は、その名の通り「室内の温度」のことを指します。そして(2)は冷房の設定温度ですが、室温と同じとは限りません。夏の暑い日など、エアコンの性能や家の気密性などによって、冷房の効き方にむらができたりして、室温が設定温度通りにならないことがあるからです。 政府の節電要請における28℃は(1)の「室温」を指しています。ですので、「エアコンを28℃に設定してください」と言っているわけではありません。要請をもう少しかみ砕けば「部屋に温度計などを置いて、それが28℃くらいになるように設定温度を調整してね」ということでしょうか。 そしてポイントは(3)の「暑さ指数」です。大きな理由が「湿度」の影響です。 私たちの体の中では、例えば食べ物を消化する際などに熱が作り出されています。なのに体温が一定に保たれているのは、汗のおかげです。実は激しい運動などを行わなくても、私たちの体はわずかに汗をかき続けていて、それが蒸発するときに体を冷やしてくれているのです。 湿度が高いと、かいた汗が蒸発しにくくなり、体内の熱がうまく外に出せなくなります。 そのため同じ気温だとしても、空気中の水分量が多くなる(すなわち湿度が高くなる)と、体への影響が大きくなります。カラッとした日より、じめじめしている日の方が、同じ気温でも体にこたえると感じるのは、それが一つの理由です。