訪米で「日米蜜月」をアピールした岸田首相、実はその裏で進めている真逆の「新しい外交スタイル」とは
■アメリカだって多極化を進めている 実は、似たようなことをアメリカ自身も進めているのは周知の事実である。 一昔前のようにアメリカが号令をかければ同盟国が黙ってついてくるという時代は終わった。そのため米英豪のAUKUSや日米豪印のQUADをはじめ、さまざまな国家グループを作って自らの限界を補い、リーダーとしての立場を維持しようとしている。まさに「プルリラテラリズム」の時代なのである。 もちろん、こうした外交は過渡的なもの、一時的なものであって、中長期的な地域の安定や世界秩序などを構築できるわけではない。
日本の場合はアメリカの政権がどう変わろうとも、日本の安全保障を実現するため、言いかえれば中国に対する軍事的抑止力を何とか維持して最悪の事態を防ぐための当座しのぎの政策である。 問題はそれが軍事に偏り過ぎていることであろう。 主要国と中国との関係を見ると、最も緊張関係にあるアメリカはブリンケン国務長官と王毅外相が電話を含め会談を繰り返すなど、閣僚クラスの要人が頻繁に接触し、各分野での交渉や協議を続けている。
欧州との関係にも変化が生まれており、今年に入ってオランダのルッテ首相が訪中し、4月にはドイツのショルツ首相が訪中した。そして習近平主席のフランス訪問も検討されている。 ところが日中の間ではほとんど、目立った動きがない。抑止力というこぶしを振り上げるだけでは悪化した関係を改善し、安定した関係を作ることはできない。 ■日中韓会談をきっかけに中国と直接対話すべき 外交は硬軟織り交ぜて国益を実現しなければならない。安保一辺倒の対応は愚策である。今回の日米首脳会談で「日米同盟はかつてない高み」と合意したのであれば、次は中国と直接対話をする番である。
幸い日中韓首脳会談を5年ぶりに韓国で開催する動きが本格化している。3カ国の首脳会談が実現すれば、それに合わせて岸田首相と李強首相の会談も実施できる。 それをきっかけに日本から首相の訪中を始め首脳の相互訪問を提起するとともに、福島原発の処理水の海洋放出を受け中国が日本産の水産物輸入を全面的に停止している問題などの懸案を一つ一つ話し合い、解決していくべきときにきている。 外交は力と力の勝負ではない。知恵と知恵のぶつかり合いの世界である。内政問題に翻弄される日々を送っている岸田首相だが、外交では、訪米の次はそろそろ中国に対して積極的に打って出なければならないだろう。
薬師寺 克行 :東洋大学教授