なぜ帝京大は4年ぶりにラグビー大学日本一を奪回したのか…勇退する”名将”岩出監督が細木主将と共に成就した再建計画
雌伏の時間は、復権のシンボルが育った時間でもあった。9連覇達成の翌年にあたる2018年度、現主将の細木が入学。彼の存在がハッピーエンドの序章となった。桐蔭学園高時代から世代有数の戦士と言われた細木は、選出された高校日本代表のスタッフ曰く「シャイな奴」。躊躇なく壁にぶち当たるプレースタイルと同時に、グラウンド内外での表情のギャップも魅力的だった。帝京大では一時怪我にも泣いたが、芝に立てば攻守で、もちろんスクラムで力強かった。 帝京大の主将は、その時々の最上級生が選ぶ。昨季までの数年間は、クラブの雰囲気と強くリンクする実直な青年に白羽の矢が立っていた。 「俺がもし主将になったら、お前、どう思う?」 左プロップの照内寿明は細木からこう相談され、「それなりの覚悟は必要だよ」と応じた 新主将の従来とは異なる個性が周りの闘争心を引き出した。対抗戦は全勝優勝。選手権突入前から、チームの充実ぶりは確かだった。細木は昨年末、こう述べた。 「僕が(主将になって)成長した部分は…本当に、僕の全てかなと思っていて。正直、3年生までは人の話を聞かなかったり、人としての初歩的な部分ができていなかったり。いまはそういうものを考えずにきちんとできるといいますか、普通のことを普通にできるようになってきた」 主将の成長が、チームの成長そのものだったのかもしれない。 優勝会見の最後。岩出監督は「時間をいただけますか」と断りを入れ、「今日の試合で監督として最後にさせてもらいます」と、勇退の決断を告げ、司会者を驚かせた。 この日の勝敗にかかわらず辞任するつもりだったこと、細木だけに数日前に教え、動揺させないため選手には、試合後にロッカールームで伝えたこと、後任はすでに決まっていることを説明した。今季のチームには、卒業生で前パナソニックの相馬朋和氏がバトンタッチを見すえてコーチとして入閣していた。 いわば最後の最後に大きな話題を残した指揮官は、「いい形で(後任に)渡せる」とも話した。優勝インタビューのさなかには、「(負けて)タフになって、学生の魅力が高まった」といった趣旨も述べた。確かに、レギュラー選手の個性が際立つ、新たな帝京大の姿がそこにはあった。名将の残した遺産を新しい監督も継承するのだろう。 表彰式。トロフィーをもらった細木は、鼻から下を覆ったマスクから頬をはみ出させていた。ずっと目は潤んでいた。集合写真の撮影時は眉間にしわを寄せ、口を大きく開ける。袖で待つ控え部員のもとへ駆け寄りトロフィーを掲げた。 (文責・向風見也/ラグビーライター)