意外にも「承認率90%超」だが…負動産を手放せる「相続土地国庫帰属制度」の、世間がまだ知らない“高すぎるハードル”【行政書士が実情解説】
あまり語られていない「申請までにかかる費用」
相続土地国庫帰属申請の進め方として、本申請をする前に法務局での事前相談が用意されています。ここで土地の状況を相談し、承認可否の見通しを立てることになります。相談時点で先述の一定要件に該当する土地の場合、「該当しない状況」に是正する必要があり、土地によっては、申請に辿り着くまでにさまざまな是正費用の負担が生じる場合もあります。 例えば、すべての土地に共通する要件として「境界を明らかにする」というものがあります。本制度の趣旨では「必ずしも専門家(土地家屋調査士)に依頼して境界確定することまでは求めない。境界標を明確に示して申請すればよい」とのことです。しかし相続土地国庫帰属法施行通達によると、申請後、法務局は隣地所有者の境界に関する認識を確認することになっています。法務局は申請地が隣接するすべての隣地所有者に対し、申請書に添付された境界に関する資料(すべての境界標を写した写真など)を同封のうえ、「申請者からあなたの土地との境界はココだという写真が提出されているが、写真どおりで間違いないか」という主旨の確認書を送るのです。 隣地所有者のなかには、「境界なんてどこでもいいよ」と言う人もいれば、「勝手に境界を決めやがって!」と怒る人もいます。「どうせ不要な土地だから、隣地が文句を言ってきたら境界線はいくらでも譲ればいいのでは」と述べる専門家もいますが、人の感情はそんな単純なものではありません。最初のボタンの掛け違いで不要な揉めごとに発展する可能性は多分にあります。 境界に異議を唱えた隣地所有者との再調整を法務局から促されてから2ヵ月を期限とし、その間に双方の感情のもつれに収拾がつかなくなる(話し合っても合意できない)と、本申請は不承認となります。それらを懸念して、最初から隣地への対応も含めて専門家に依頼する人も多くいます。 また、申請地が山林の場合、申請地と隣地との枝木が相互に越境し合っていたり、境界線上に樹木が生い茂っていたりすることがあります(山林なので当然ですが)。例外的に山林が多い地域を管轄する法務局では、越境(隣地への越境)のみ解消し、被越境(隣地からの越境)は放置のままでよいとする場合もありますが、それ以外は原則として、相互に越境し合っているすべての枝木の剪定を国から求められます。 厄介なのは、被越境となる隣地の枝は、民法上、勝手に切ることはできず、相手に「切ってください」と催告したうえで、それでも相手が切らない場合に初めてこちら側で切れるようになる点です。 さらに、境界線上にある樹木は、誰が植えたかわからない場合は共有物と推測されますが、その場合でも、隣地所有者と協議し、了解を得たうえで樹木の全部を伐採するようにとの是正指示を受けることもあります。山林の隣地所有者といっても、所在地の近所に住んでいるとは限りません。全国各地に散らばっている複数人の共有名義土地である場合もあります。 そのほか、放置竹林が全国的に問題になっている昨今では、敷地内に竹が生息している場合も厄介です。竹は樹木に比べ生命力が強く成長も早いので、短期間で20メートル程度の竹林が生い茂るのですが、急成長した竹林は日照を妨げ、他の樹木を腐らせるのです。国は、この腐った樹木が倒れることで周囲に多大な影響を及ぼすことを懸念しています。 そのため申請の条件として、竹林は剪定でなく「伐根(根まで引き抜く)」まで求められます。伐根は基本的に重機で行いますが、重機が入らなければ手作業で行うことになります。専門業者に依頼する場合も費用は高額です。 これらはほんの一例です。申請まで辿り着こうと是正指示の通りに実施すると、専門家や業者に支払う費用負担が大きくなり、この時点で申請を断念する人もいます。
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