意外にも「承認率90%超」だが…負動産を手放せる「相続土地国庫帰属制度」の、世間がまだ知らない“高すぎるハードル”【行政書士が実情解説】
「国が引き取れる相続土地」には条件がある
ただし、国が引き取った土地は国有地として税金で管理することになるため、どんな土地でも申請すれば引き取ってくれるわけではありません。土地所有者による国への管理コストの転嫁などモラルハザードの発生も考慮して、国は「引き取るうえで該当してはいけない一定要件」を設定し、土地所有者から帰属申請があったときに、各要件に該当しているか否かを法務大臣(全国の地方法務局)が審査して、承認可否を決定する立て付けになっています。具体的には、次のような内容です。 ---------------------------------------------------------- 【却下要件】申請時点で該当すれば即却下(門前払い)される5項目 ●建物がある土地 ●担保権(抵当権など)や使用収益権(地上権など)が設定されている土地 ●通路や水路など現在他人に使用されている土地 ●土壌が汚染されている土地 ●境界が明らかでなく争いがある土地 【不承認要件】申請後に法務局による調査で不承認となる5項目 ●崖(勾配30度以上かつ高さ5メートル以上)がある土地 ●果樹園の樹木や廃屋、古いブロック塀などがある土地 ●地中障害物(建物基礎、建築資材ガラなど)がある土地 ●隣地所有者と通行などで揉めている土地 ●その他、通常の管理や処分に過分な費用と労力を要する土地 ※出典:法務省ホームページ『相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件』(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00461.html) ----------------------------------------------------------
申請にまで辿り着けば、国庫帰属の承認率は高い
相続土地国庫帰属制度については、「要件が厳しすぎて使えない」という意見もあれば、「当初想像していたよりは使える」という意見もあり、専門家の間でも見方が分かれています。 法務省が公表している『相続土地国庫帰属制度の統計』(令和6年11月30日時点の内容)によると、 ●帰属承認率:約92% ●却下・不許可率:約8% ●審査中の件数:1,373件 となっています。 これを見る限りは使えない制度ではないようにも思われますが、他方、「申請まで辿り着ければ」という条件付きの結果のようにも解釈でき、事前相談の段階ではねられて申請まで辿り着けていない件数(未公表)も相当数あることが推測されます。 ちなみに、申請された土地の種別内訳は、農地(田、畑)が37%と一番多く、次いで宅地が35%、山林が16%、その他(原野など)が12%の順となっています。
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