「性的弱者を理解できない人」が、社会に一定数存在する根深い理由
性的強者としてふるまってきた男性たち
5つ目は、「性」を考えることの普遍性と今日性です。現代において、性的強者であるはずのヘテロセクシュアル男性の「性」の有り様は、買春、セクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス(DV)など、さまざまな方向から批判にさらされ、恋愛・結婚の困難などに見られるように、実態的にも性的強者の立場から、すべり落ちつつあるように見えます。そうした中で、性的強者であることの幻想性に気づく男性も増えてきています。 こうして「性」の有り様、「性」と社会の関係を真剣に考えることは、マジョリティである男性・女性、L/G/B/Tなどを問わず、すべての人々にとって避けて通ることができない、切実かつ今日的な課題になってきました。そしてそこに「性」と社会との関係を分析する学問、ジェンダー&セクシュアリティ学(性社会学)の必要性が見えてくるのです。 「買春(かいしゅん)」とは、お金で性的サービスを買うことです。一般的には男性が女性を「買う」行為が多いわけですが、「売春(ばいしゅん)」と音が同じになり、紛らわしいので「かいしゅん」と発音しています。一緒に「買売春(ばいばいしゅん)」とも言います。 日本の男性たちの中には、1970年代から90年代に入るころまで、団体で東南アジアに旅行し、集団で買春していた人たちがいました。欧米の男性も買春はします。でも団体ではしません。ところが日本人は集団でやる。だから目立ちます。バンコクのホテルのロビーに現地の女性を並べて、会社の偉いさんから順番に気に入った女の子を選んで部屋に連れていくようなことを平然とやっていました。 私は1990年頃に、韓国・釜山(プサン)周辺の遺跡の学術調査に行きましたが、日曜日の朝、ホテルのレストランでの光景を見て本当に驚きました。日本人の男性と韓国人の女性のカップルばかりなのです。 そもそもホテルの朝食会場のテーブルが2人掛けになっています。韓国の研究者に聞いたところ、九州からの団体客で、土曜日の昼に韓国に着きゴルフを1ラウンドして、ホテルに帰ると女性が待っていてセックスして泊まり、翌日は一緒にゴルフをして、夕方、日本に帰る、一泊二日のゴルフ&買春ツアーとの説明でした。 そうした集団買春やセクシュアル・ハラスメントが社会的に批判されるようになったのは1990~2000年代になってからです。それ以前は、誰もがしていたとは言いませんが、それなりに「当たり前」の行為だったのです。 そうした行動を恥ずかしいと思わない感覚は、一度、身についてしまうとなかなか直るものではありません。セクハラにしろDVにしろ、悪いことだと自覚がない世代は、残念ながら日本社会にまだまだいます。なんの疑問もなく自省もなく、性的強者としてふるまうことができた男性たちです。
三橋順子(性社会文化史研究者)