「選挙妨害」とは一体なんだろう?東京都知事選挙のタイミングでもう一度考えたい適正な選挙運動のあり方
「選挙の自由」は基本的条件!重い罰則規定も
選挙妨害を処罰する規定の歴史は古く、現在の公選法の前身となる「衆議院議員選挙法」(明治22年法律第3号)にも盛り込まれていました。公選法第225条を理解する上でポイントとなるのが、妨害しているのが「選挙の自由」だという点です。 公選法にいう「選挙の自由」とは、「選挙人が自己の良心に従ってその適当と認める候補者に対して投票する自由と、候補者およびその選挙運動者等がその当選をはかるために法令の規定の範囲において選挙運動を自由に行うことをいい、選挙が公正に行われるための基本的条件」とされています。 そして、「この投票の自由と選挙運動の自由を不正の方法によって妨害することは何人によって行われるかを問わず、全て犯罪行為として処罰」するというのが、選挙の自由妨害を処罰する趣旨です。 妨害行為が立候補者の自由だけでなく、有権者の「自由」を奪っているか、双方の選挙の自由に支障を来しているかが問われるのです。 この選挙の自由妨害罪の罰則は、公選法第225条の規定により、4年以下の懲役もしくは禁錮、100万円以下の罰金と定められています。悪質な選挙違反の代表例である買収罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは禁錮、50万円以下であるのに比べて、罰則のレベルは買収よりも重たい、きわめて厳しいものになっています!
妨害されたら録画など証拠を残すことが鉄則!
識者は今回の問題をどう見たのでしょうか? 元警察官でこれまで選挙違反や贈収賄の事件などを担当してきた、選挙ドットコム顧問の齋藤顕氏は、「選挙期間中の立候補者による選挙妨害だっただけに捜査機関としては困難も多かったと思う」 一部の候補者からは警察が逮捕か何か対応できないか、との声があがったことに対しては、「逮捕するためには捜査機関が証拠を集めるのに加え、身柄拘束後に所管する法務省との情報共有なども必要となり、一定の時間はかかる」と説明。警視庁捜査2課としては18年ぶりの特捜を立ち上げ、「補選から2週間程度で関係者を逮捕した警視庁の動きからは並々ならぬ気合を感じた」と話します。 「つばさの党は今年7月の都知事選でも妨害行動を繰り返すことを明言していた。それを見据えて早期に取り締まったのだろう」と推察。警察庁の露木康浩長官が会見で「仮に候補者がする選挙運動であっても、他の候補者の演説を妨害する行為が許されることにはならない」「選挙の自由を妨害する悪質な公選法違反事件には、引き続き、法と証拠に基づき厳正に対処していく」と言及したことにも、現場の空気にも捜査機関としての自由妨害罪を広げないように備える強い意志の表れを感じたといいます。 同じく選挙ドットコム顧問で川崎市選管や自治省選挙課での勤務を含め50年に及ぶ実務経験を有する実務経験を有する「選挙制度実務研究会理事長」の小島勇人氏は、自らもかつての川崎市の勤務現場で、今回のような演説妨害を目の当たりにした経験から、選挙運動の関係者に対して「選挙妨害にあったり、その事例に遭遇したら、必ず記録し、証拠を残しておくことが鉄則です。スマホでの動画撮影で十分ですので、日付・時間が分かる形で妨害された様子を様々な角度で撮影しておくといいでしょう」とのアドバイスがありました。 一方で、国会や有識者らが提案している即時に逮捕ができるような公選法改正やガイドラインの制定には慎重な考えを示します。その理由は「今回のように現行法の解釈で対応は可能であり、ガイドラインを示すことにより、それが基本となってしまい取り締まりの範囲を狭める懸念があるのでは」と説明します。