天心vs武尊のPPV売り上げが約27億円…格闘技ビジネスに新時代到来か?
PPVの市場を切り拓き、100億円を超える夢のファイトマネーを可能にした欧米市場での契約件数の過去最高記録は、朝倉未来が9月にエキシビションで対戦するプロボクシングの 5階級制覇王者、フロイド・メイウエザー・ジュニア(米国)が 6階級制覇王者のマニー・パッキャオ(フィリピン)と2015年に対戦した世界戦で約460万件。この時は90ー100ドルの販売価格がつけられており、これだけで500億円近い金額が動いた。 ちなみに2位の記録もメイウェザーが引退後にUFCのコナー・マクレガー(アイルランド)とボクシングルールで2017年に対戦したもので、こちらは430万件。ただ欧米市場で景気のいい話だけが飛び交っているわけではない。 天心vs武尊の50万件を下回る数字の世界戦もざらにあり、現在の人気ナンバーワンとされる世界スーパーミドル級の4団体統一王者、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)が、この5月にWBA世界ライトヘビー級スーパー王者のドミトリー・ビボル(ロシア)に挑んだ試合でさえ52万件。100万件を突破すれば大ヒットとされており、市場のマーケット規模を考慮すると、今回の天心vs武尊は、欧米市場に換算すれば100万件を軽く突破したものと考えられている。 今回の興行規模は、PPVの27億円に加え、入場収入の20億円、午前8時半から場外に設けられたグッズ売り場に長蛇の列が途切れなかったグッズなどのマーチャンダイズ収入、そしてフジテレビの撤退後、急遽、救世主として冠スポンサーを引き受けた「Yogibo」などのスポンサーフィーを加えると、軽く50億円を突破するものと推定される。 榊原氏が「日本の格闘技史上、過去最高のファイトマネーとなる」と昨年のカード発表時に断言していた天心、武尊のファイトマネーを含めても、その興行規模は、日本の格闘技界の歴史を塗り替えるものになった。 すでに地上波の放映料では高額なファイトマネーがまかないきれず、ボクシング界ではPPV型のビジネススタイルがスタートしているが、そのスケールさえ日本人格闘家同士の戦いで超えてしまった。PPVの契約件数をキープするには、天心vs武尊クラスのインパクトのあるカードの提供が必要になるが、これだけのビジネスポテンシャルが格闘技界にあることを実証したことに意義がある。今後、ボクシングに転向する天心は、その求心力をボクシング界のビジネススキームにも生かすことが可能になるだろう。 またRIZINは定額動画配信サービスの「RIZIN STREAM PASS」をスタートするなどの新たな配信事業への取り組みも行っている。今後も様々なビジネスチャネルが開かれる可能性がある。 ただ配信ビジネスに関しては、対処しなければならない問題が、いきなり露呈した。違法アップロード問題だ。「500回以上(試合映像を)見た」という天心でさえ、一番最初に見たのはTIKTOKから流れてきた違法映像だったという。あまりに今回の試合の反響が大きく映像削除のパトロールが追いつかなかったと見られる。 榊原氏は「ネット上の泥棒、違法動画が横行している。やめましょう。情けないし見苦しい」と怒りの訴えを行い、悪質なものに法的措置を取っていることを明かしたが、今後は違法なアップロード、ダウンロード行為への対策が必要になることにもなった。 また今後の問題としてPPVをメインにしたビジネススキームに傾くと視聴者層の拡大の壁にぶつかるという問題も出てくる。欧米のプロボクシング界もすべての試合をPPV配信しているわけではなく、カードによっては無料放送を織り交ぜながら配信している。日本の格闘技界も地上波と完全決別するのではなく放映再開への努力も必要だろう。天心vs武尊戦が動かしたものは計り知れない。まさに歴史的一戦だった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)