アレックス・ヴァン・ヘイレンが語る、最愛の弟エディ・ヴァン・ヘイレン
全身防護服という姿で弟のそばに座っていたアレックスは、本当のことを言わなかった
彼が携帯電話に入っているオーディオファイルを再生すると、誰も聞いたことがないエディ・ヴァン・ヘイレンのリフと、その背後でハイハットでリズムを刻むアレックスのドラムが、その小さなスピーカーから聞こえてくる。イントロのリズミカルなコード演奏は1978年のデビューアルバムに収録されていても不思議ではなく、一方でアルペジオを用いたヴァースの部分には、これまでのバンドのスタイルとは異なる新鮮さがある。「フレーズ間のあいつのプレイに注目してくれ」とアレックスは言う。「死んだ音は一つもない。気付いたかどうかわからないけど、あいつをいつもと違うリズムに反応させてみようとしたんだ」 今世紀のある時期に作られたその曲は「形にはならなかった」という。アレックスがこの曲をかけたのは、2人が生涯にわたって続けた終わりなきジャムセッションで何をしようとしていたのかを示すためだ。彼はまた、自身の回想録のオーディオブックに収録される予定の別の曲も聴かせてくれた。レッド・ツェッペリンの影響が感じられるこのインスト曲は、2012年のアルバム『A Different Kind of Truth』時の最後のスタジオセッションから生まれた未発表曲だ。他とは異なり、この曲はボーカルなしで完結しているように思える。 ヴァン・ヘイレンには無数の未発表曲があるが、完成しているものはかなり少なく、歌が入った曲はさらに少ない。「これは全部単なるパーツに過ぎない」と彼は話す。「フレーズがどれだけあっても、曲にはならないんだよ」。アレックスによると、何かしらの形でリリースすることを検討しているまとまった数の曲があるものの、発表までには数年かかる可能性があるという。彼はChatGPTを開発したOpenAIに連絡を取り、「エディが何かしら弾いた時の演奏パターン」の分析を通じて、新しいギターソロを生成する可能性について探っている。また、彼はこれらの楽曲の歌い手としてある人物を想定している。「理想的にはロバート・プラントだ」と彼は言うものの、元レッド・ツェッペリンのフロントマンと最後に話をしたのは1993年だという。「頭がおかしいと思われるかもな」とアレックスは付け加える。「でも条件が整えば、実現する可能性はあるんだ」 またアレックスは、ヴァン・ヘイレンの伝記映画の制作もゆっくりと進めており、今はプロデューサーを探しているところだ。「これはあくまで長期的な計画だ」と彼は言う。「参考までに言うと、クイーンの映画は制作に30年かかった」 エディ・ヴァン・ヘイレンが晩年、実験的なガン治療を受けるためにスイスに向かったとき、彼はマルチエフェクターのギターペダルを持っていった。「ただリラックスすればよかったのに」とアレックスは言う。「死の間際に、何があいつを駆り立てていたのかは分からない。自分の中にどうしても満たせない欲求があって、何かせずにはいられなかったんだろう。亡くなる直前まで、あいつは音楽を作っていた。正直なところ、どれもいい出来だとは言い難かったけれど、それは重要じゃない。何かを作ることに意味があったんだ」 エディの長期にわたる闘病生活を思い出すと、アレックスはまた涙を流してしまう。「あいつは最後まで闘い続けた。あいつのことを貶すやつは俺のナニをしゃぶれって感じだよ……。あいつがガンを克服するために何を経験しなければならなかったかを知っていたら、下手なことは言えないさ。あいつは一般的ではない風変わりな治療法を試して、結果的に体が毒されてしまった。そして、当たり前だけど、そんな状態で酒なんか飲むべきじゃなかったんだよ」 エディの死の数カ月前に顔を合わせた際に、アレックスは医者たちがエディに残された時間が少ないと予測していることを彼に伝えなかった。新型コロナウイルスが猛威を振るっていた当時、全身防護服という姿で弟のそばに座っていたアレックスは、本当のことを言わなかった。「実の弟に面と向かって、『お前は助からない』なんて言えるはずがないだろ?」とアレックスは言う。「最後まで望みを捨てずに、明日が来ると信じているように振る舞い、次のレコードについて考えたりする。鏡に映った自分に、『俺はあいつに嘘をついているのか?』って問いかけることもあった」 最終的に、ガンはエディの脳に転移し、彼は深刻な脳卒中を起こして亡くなった。少し前に、医者たちはガンマナイフで脳腫瘍を摘出し、腫れを抑える目的でエディにステロイドを処方していた。それを摂取すると、エディは「スーパーマンになったような気分」になれたとアレックスは話す。「2個が良いなら、20個はもっと良い。それが我が家の合言葉だった」。ある日、エディは瓶の中に入っていた薬をすべて飲んだ。それは自傷行為ではなく、快楽を味わうためだった。「瓶を見たわけじゃないけど、中にはたぶん1000錠ぐらい入っていたと思う」。そう話しながら、アレックスは笑わずにはいられなかった。それが弟の死を早めたのは確かだが、その行動は実にエディらしかった。 パンデミックの影響で、エディの葬儀や追悼イベントは一切行われなかった。「別れの儀式らしいことは何ひとつ行われなかった」とアレックスは言う。エディは火葬され、ウルフギャングが遺灰を引き取った。「ウルフは本当に素晴らしい仕事をしてくれた」とアレックスは語る。「若者には荷が重過ぎる役目だった」。父の存在をいつも近くに感じられるよう、ウルフギャングは今も父の遺灰の一部が入ったネックレスを身につけている。 アレックスにとって、エディはより近くにいる。彼はエディ・ヴァン・ヘイレンの亡霊が自分につきまとっていると信じているが、それをむしろ歓迎している。「何度かあいつに会ったよ」と、彼は筆者を真っ直ぐに見て話す。「本当に」。彼は今日もエディの存在、あるいは匂いを嗅ぎとった。「今朝もまさにそこにいたんだ」。アレックスは2人が「自分たちがここで果たすべきこと」を達成したと信じており、エディもようやくそう理解したと確信している。 「あいつなら大丈夫だよ」。現世でも来世でも、誰よりも身近な存在に今一度想いを馳せながら、アレックス・ヴァン・ヘイレンはそう話す。「どこにいようとも、あいつは大丈夫さ」 Additional reporting by Kory Grow Translated by Masaaki Yoshida
BRIAN HIATT